大変なことが……!
「伯爵様!」
ルークが慌てて伯爵を助け起こそうとした、その時。
今度は、シシィがテーブルに突っ伏した。
「きゃあ! シシィ!」
「アナベル……。どうしたのかしら、私」
シシィはそれだけ言って、気を失った。
「シシィ、しっかりして!」
驚き慌て、おろおろするしかない私に、伯爵の傍でしゃがみ込んでいたルークが、大声で呼びかけてきた。
「アナベル、あなたは大丈夫か?」
「ええ、私はなんとも」
答えかけて、私は彼の顔色も悪いのに気づいた。なんだかわからないが、大変なことが起きている。
私は席から立ち上がり、ふたりのそばに近づいた。
「ルーク! あなたこそ大丈夫? とにかく、誰か呼んでくるわ!」
その時になって、ミリーは無事なのかと、私は気づいた。
「ミ…… お嬢様。大丈夫ですか?」
振り向いた私が見たのは、微笑みを浮かべ、仁王立ちしているミリーだった。
「ミリアムお嬢様?」
「アナベル、お久しぶりね。いえ、久しぶりじゃないわね」
私は、大きく息を呑む。
「気づかないわけないでしょ。あなたと私の仲だもの」
「どういう?」
私は、パニック状態に近かった。
ミリーは、私の正体に気づいていた? いつから?
ミリーの他にも、私が生きていることを知っている人はいるのか。
でも、今はそれどころじゃない!
「後で話しましょう、どいて」
私はミリーを押し除け、ダイニングルームから出ようとしたが、彼女はわざとらしく体を寄せてくる。
そして、大きな悲鳴を上げ、蹲まった。
「ミリー?!」
「アナベル……あなた、何をしたの?」
「何? 私が?」
混乱する私に、ミリーが苦しそうな息の下、ようやくといった様子で声を振り絞る。
「あなた、が。……毒でも、盛った、のでしょう?」
「何を言ってるの!」
「あなただけ、何故無事なの……」
ミリーの言葉に、私は部屋を改めて見回した。
「ええっ!」
テーブルには、シシィだけでなく、トラヴィス、ジュリアンも突っ伏している。
床には、身じろぎもせず倒れている伯爵と、彼の傍で苦しそうに喘いでいるルーク!
「どうかなさいましたか?」
ダイニングルームの入口に、恐る恐る部屋の中を覗き込んでいる執事やメイドたちがいた。女性の金切り声が響き、私は我に帰った。
「違うの! 何故だかわからない、私じゃないわ!」
執事とメイドたちは、早足で部屋に入って来て、倒れている伯爵や、一座の人を助け起こし始めた。
その頃には、ルークも床にうつ伏せになってしまっていた。彼の背中は、大きく上下している。
「違うの、とはどういうことですか?」
伯爵の傍に跪ずいている執事が、冷たい目をして私を見ていた。




