予感めいたもの
伯爵家のお茶会当日、私たちは朝から落ち着かなかった。結局、今日は私たちは何もせず、ただお茶会を楽しむだけにしよう、そう決めていたのだが……。
「楽しいお茶会だといいけど」
「王宮の時より緊張するよな、何故だろ」
シシィとトラヴィスは笑っているが、私は何かが起こりそうな予感に怯えていた。妙な胸騒ぎがするというか。
なんとなく不安な気持ちは、伯爵家のダイニングルームで歓談している間も、ずっと続いていた。
大きな大理石のテーブル、私の真正面にはミリーがいる。今日の彼女は、ご機嫌のようだ。
「ーーさん、アンコニュさん」
私は、はっとした。
呼ばれてる? 私の偽名。
顔を上げた私は、微笑みながら私を見る伯爵と目が合った。
「今日、またお会いできて、嬉しいです」
微笑んだつもりだが、ひきつった笑顔になっていたかもしれない。
「私の、占い師としての名前をご存知なのですね」
「王太子様から聞きましたわ」
伯爵と私の会話を、ミリーが引き取った。
「えっ?」
「王太子様は仰いました。アンコニュさんに、私のことを相談したって」
冷や汗が出てくる。
『私の占いによるものとは決して言わないでください』と、釘を刺しておいたが、やはり王太子様はペラペラ喋ったのね。
あのおしゃべり男め。
予想していたことだけれど、今や私の中では、王太子様は信用できない、くだらない男になってしまった。
果たして王太子様は、私のアドバイスを、どこまでミリーに話したのだろう?
今日のミリーはご機嫌みたいだから、私が悪く言っていたとは、王太子様は伝えていないように思うが。
「このお菓子、素晴らしいですわね」
シシィが朗らかな声で言ってくれたおかげで、私の緊張は一瞬にしてほぐれた。
「ありがとう。今日のお菓子は全て、城下の有名な職人に作らせたのですよ」
伯爵の顔が綻んだ。シシィは、満面の笑みを浮かべて言った。
「栗のブランデー煮かしら。特に、これが好きだわ」
「昨年の秋に収穫した栗の甘煮です。一番シンプルで、手間が掛かっていない」
「それなのに、こんなに美味しいなんてねぇ」
「どうぞ、たくさん召し上がれ」
伯爵はご機嫌だった、その時までは。
軽食や菓子を楽しみながら、芝居の話などをしていた私たちに対して、伯爵は段々と言葉少なになっていく。
やがて、彼は全く喋らなくなり、顔色も悪くなっていた。
「伯爵様? いかがされましたか?」
気遣わしげにルークが尋ねると、伯爵は苦しそうに答えた。
「あ、ああ。大変申し訳ないのだが、私はここでお暇してもよろしいかな? あまりに楽しくて、酒を飲みすぎたようだ」
伯爵は席から立ち上がろうとして、よろけて、そのまま崩れるように床に倒れてしまった!




