仕切り直し
「そうだな。昼日中に出てくる幽霊なんぞ聞いたこともない」
「明るいうちに出てきても怖くないわね、いくら私がこんな顔でも」
「こんな顔? 何を言ってる、こんな美しい顔をして。嫌味なのか?」
ルークは笑って、私を抱き寄せる。
体が密着して、彼の欲望を感じた私は、どきどきした。
何度も愛し合っているのに、抑えきれないような胸のときめきを感じるのは何故だろう?
「それは、俺たちが前世から決められていた恋人同士だからさ」
「ルークったら。前世からだとしたら、ロマンチックね」
私は彼に抱きしめられ、うっとりとしていたが、ふと我に帰った。
「でも、真面目な話、どうしたらいいかしら。せっかく面白い台本なのに。あっ、肝心なことを忘れていたわ!」
私が埋葬された時、私の姿をミリーは見ていないはずだ。
我が国では、妊婦は葬儀に参列してはいけないのだ。
死者に対面するのも禁じられていて、例え身内であっても、そのあたりは厳しく定められている。
「だから、私の “死者のドレス姿” を見ても、ミリーはわからないかもしれない」
「そうなのか。あの美しいヴェールとドレスは、埋葬のための特別なものなのだな」
「あのドレスは、私の嫁入り支度の一枚だったの。一番高価で一番美しい……」
悔しい思いが甦ってくる。
「俺は、どうしようもない馬鹿だな」
ルークが、ぽつりと言った。
「生身の人間相手だから、台本通りには進まない。よくよく考えてみたら、あなたが幽霊姿で現れたとしても、ミリーの反応は読めないんだった」
「普通の人間なら、後ろめたさで飛び上がるほど驚くでしょうね。ショック死するくらい!」
「ショック死か。そうか、ミリーの胎児が死ぬ恐れもあったな」
ルークは、険しい顔つきになった。
「え? そんなことあるの?」
彼女のお腹は、もうだいぶ大きくなっている。
「あれくらい大きくなってるなら、大丈夫じゃないの?」
「お産はデリケートなことだからな。万が一にも、子供に何かあったら厄介なことになる。そのことも、楽観的すぎた」
ルークは、手で顔を覆うようにして天井を見て、「仕切り直しだ」と、呻くように言った。
「ねえ、ルーク。それなら、いっそのこと、王太子様を驚かせてやらない?」
「何だって?」
「王太子様は、私の埋葬される姿を知っているから、あのドレス姿で幽霊となって怖がらせたいな! 王太子様に、せめて一言くらい嫌味を言ってやりたい」
私は、自分の思いつきにわくわくしたが、ルークにあっさり否定された。
「王宮こそ、幽霊が現れるのは難しいぞ。王太子への復讐は、全て解決してから。またいずれ、ゆっくりとやろう」




