ルーク②
ルークは、おや? という顔をした。
「あなたのような貴族の令嬢が、卑しい一座の芝居を観に来てくださったのか?」
「そんな言い方なさらないで。グラン・ボヌールは一流の劇場ではありませんか。たしか、国王陛下も毎年観劇に行ってらっしゃるはず」
「ああ、有難いことに」
私は、かつて観た一座の興行について、ルークに説明した。
「主人公は、とても美しい女性でしたわ。あんな素敵な女優さんがいらっしゃるのね」
「うちの一座は男性しかいないが」
「ええっ? では、あの方は」
「女役の俳優だ。なあに、化粧映えするだけの男だよ」
「信じられないわ! 声も仕草も、まるっきり女性だった」
驚く私に、ルークはおかしそうに笑った。
「本物の美女には敵わないさ、あなたのような方には」
彼は、ごく自然に私の手を取ると、手の甲に控えめなキスをした。
びっくりして、思わず彼の手を振り払ってしまう。
「失礼、ふふ」
過剰に反応してしまった、単なる挨拶のキスなのに。
でも、仕方ないことなのだ。
目の前の男性は、おそらく私が今までお会いした中で、最も美しい男性なのだもの。
栗色の髪に、黒々とした太めの眉。吸い込まれそうな瞳の色は明るい茶色。きりと閉じられている厚めの唇は、セクシーとでも呼ぶのかしら……。
「アナベル?」
不意に名前を呼ばれ、私ははっとして座り直した。
「どうした? 具合が悪そうだ」
いやだ、私ったら。すっかり彼に見惚れてしまっていた。
「……私の名は、ご存知なのね」
「もちろん。初めてお見かけした日に、すぐにあなたのことを調べさせてもらった。まさか、その直後に亡くなられるとは思わなかったが」
「私は、本当に一度死んだのかしら。不思議だわ。でも、埋葬されたのは間違いないのよね。そういえば、どうしてあなたは墓所にいたの?」
私の問いに、ルークは一瞬、戸惑った様子を見せた。
「それは、その。信じてくれなくてもいいが、あなたに花を手向けたいと思ったのさ」
「え? 私に?」
そういえば、彼は白い百合の花束を持っていた。
彼の眼差しは真剣だ。
「ありがとう。でも、縁も所縁もない私に花を?」
「霊廟の中に入るのは、さすがにためらわれたが、せめて入り口に花を捧げたいと思った。墓所のそこここに、花束がたくさん置かれていただろう? 国一番の美女の突然の死を憐れんだ人たちの仕業さ。あなたの友人や知人だけではないだろうな」
「そうだったの」
そんな話をするうちに、馬車は街の中心地にさしかかり、裏路地に入ると一軒の家の前で停まった。
私はレースのヴェールで顔を隠し、ルークに手を取られ、馬車のステップを降りた。
どうやら、ルークの言う “知り合いの医者” の家に来たようだ。




