リュドミラ
「リュドミラ?」
幼い頃のミリーを世話していた人、確かリュドミラ夫人という名前だったはず。まさか、同じ人?
我が国には珍しい名前だけど、隣国から来た人だったのか……?
「そう、リュドミラ。ああ! いろいろ思い出してきたぞ。アンナ・リュドミラ・リカストワ。隣国のリカストワ一族は医師や薬師が多い名家なんだ」
「そんな名家の人が、何故我が国へ?」
ルークが尋ねると、医師は肩をすくめた。
「さあ? そこまでは知らんね。まあ、何かやらかしたんだろう。しかし、そのアンナ・リュドミラは美しく教養があるから、我が国の大商人の妻に納まったんだ。商人は賭博稼業もやってたのさ。その事件の後すぐ、大商人も亡くなったが」
医師の家から帰る馬車の中で、私は興奮を抑えられなかった。
「ミリーの世話役だったリュドミラ夫人は、アンナ・リュドミラ・リカストワと同一人物よね?」
「どうだろう。昔のことだから、はっきりとしたことはわからないな。しかし、同一人物だとしたら、毒はそのリュドミラ夫人が持っていて、ミリーに託したなんてことも考えられるな」
「やはり、ミリーに近づくしかないわ。リュドミラ夫人の名前を出して脅しをかけるのよ。自白が一番の証拠よね!」
私は俄然、やる気が出てきた。
光が一筋、見えてきたのだ。
明るい気分で劇場に戻った私を、ある知らせが待っていた。
「国王陛下のお茶会に、ご招待された?」
「そうじゃよ、こんなことは初めてじゃ!」
アルフォンソ老の興奮したような言葉。彼の頬は紅潮している。
「とうとう、我が劇場も一流と認められたといっていい」
「そうか?」
ルークはそっけない。
「今年は花祭りに王宮に招かれて、充分なアピールが出来た。しかも、今回は『お茶会に来てほしい』とのこと。庶民の我々には、考えられない名誉だぞ」
私は複雑な思いで、アルフォンソ老の言葉を聞いていた。
毎年のお茶会、貴族であるお父様とお母様は楽しみにしていた。
貴族以外も、様々な分野で活躍する人々を招いて、その人たちと、王族貴族が楽しく歓談する集い。そこで繋がりができて、パトロンとなる貴族も多かった。
『招く者』と『招かれる者』の間には、厳然とした格差があるのだ。
今まで何も思わなかったが、本来なら、私は『招く側』であり、ルークは『招かれる側』である。
「で、俺と誰が伺えばいい?」
「そりゃ、看板役者のシシィとジュリアンあたりかな」
「看板役者か。……では、アナベルも一緒だな」
ルークが、考え事をするような仕草で呟いた。
「そりゃあ、辞めといたほうがいいじゃろ」
「何を言い出すの? いやだわ」
アルフォンソ老と私は、同時に叫ぶ。




