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過去の毒殺未遂事件

「『決まっている? ルールとして明文化されているわけではありませんが』だとさ……」


 ルークは、そっと私の髪を撫でて囁いてきた。


「明日、久しぶりに医者に診てもらおう」


「医者?」


「ああ。顔のあざを、あの医師に診てもらうんだ」


 私は「無駄よ」と、そっけなく答えた。


「少し薄くなってる。生え際に、綺麗な黒髪が生えてきているじゃないか。きっと全て良くなってるはずだ、こんなに美しいのだから」


 ルークの優しさに、涙が出そうになる。

 翌日、朝から私とルークは、あの医師を訪ねた。

 医師は、嬉しそうに迎えてくれ、私の全身を頭から爪先までじっくりと見た。


「前にお会いした時より、お元気そうで何より。健康そのものに見える」


「そうですか? 自分では全然わからないんですけど」


「あざのほうはなんとも言えないが、先例を見るに、いつかは消え去ると思うのだが」


 先例とは、以前診察してもらった際に話に出た、拳闘士のことだろうか。


「拳闘士の方のことですね?」


「ああ、そうそう」


「拳闘士は、何のいざこざに巻き込まれて、毒を盛られたんだろう?」


 ルークがふと思いついたように言うと、医師はすかさず「金じゃよ」と答えた。


「金?」


「若い者は知らんだろうが、昔は拳闘の試合は賭博対象だったのだ」


「アルファンソ老に聞いたことあるな。ひとり、ずば抜けて強い拳闘士がいて、賭けが成立しなくなって、拳闘試合の賭博は(さび)れたとかなんとか」


「それそれ! その伝説の男がある日、試合開始早々にパンチを喰らって倒れて、そのまま死んでしまったんだ」


 医師は懐かしそうに話を始めた。

 伝説の拳闘士はその日、試合前から様子がおかしかったらしいが、強行出場した挙句、試合に負けて亡くなったのだという。


「強さも伝説級じゃが、死んで二日後に生き返ったことでも伝説になったわけだ」


「試合前に毒を盛られた、ってことか?」


「どうやら、そうらしい。その日の賭けは、ごく少数の賭けに勝った人たちが、大儲けしたわけじゃ」


「酷い話だな」


「まあ、そいつが強すぎることを、面白く思っていない人も多かったのだろう。彼が引退して、再び拳闘試合は少し盛り上がったな。結局、また人気がなくなって、今は賭け拳闘試合は消滅したが」


「毒を盛った犯人は捕まったのか?」


「ああ。……いや、犯人は分からずじまいだ。直接毒を盛った犯人なら、疑わしい女がいるが」


「女?」


「隣国から来た女が怪しい、と当時散々言われたが、外国人は色眼鏡で見られがちじゃからな。一応、調べを受けたが、すぐ釈放された。あの女、生きていたら幾つぐらいだろう? 上品な美しい女だったな、アンナ・リュドミラとかいう名前だった」


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