シシィの思い
翌朝、何食わぬ顔をして朝食の席についた私を見たルークは、少し驚いたようだった。
勘のいいシシィは何か気づいたようで、私とルークを交互に見てくる。
彼は「はぁ」と、わざとらしくため息をついて言った。
「もう、好きにしなさい。但し、どうなっても知らないわよ。特にアナベル、あなたは茨の道を選んでしまってるの。ルークも、そのあたりわかってる?」
ルークは、「な、何を言い出すんだ?」と、狼狽えて返事したが、その後は落ち着き払って答えた。
「シシィ、心配してくれるのは嬉しいが、俺の気持ちはもう決まっているんだ。アナベルさえよければ」
「アナベル嬢ちゃんさえよければ? 何だ?」
アルフォンソ老が、畳みかける。
「アナベルと結婚したいんだ」
シシィとトラヴィスが「え!」と、同時に声を上げて顔を見合わせた。しかし、彼らより私のほうが驚いていた。
「結婚だとお!」
「何言ってるの? 公爵家令嬢とあんたが?」
ルークは真面目な顔をして頷く。
「無理よ」
シシィは、にべもない。
「あんた、何も知らないのね。貴族の結婚には、国王陛下の承諾が必要なのよ。公爵家令嬢と庶民は結婚なんてできないわ」
ルークは目を光らせて、私のほうを見る。
私は俯いた。
「この話はお終い! さてと、今日の公演も頑張りましょう」
シシィはそう言って立ち上がると、まだ途中だった食事の皿を片付け始めた。
「あの、シシィ」
「なぁに、アナベル」
シシィの言い方に、少し棘のようなものを感じる。
「まだ食事は途中じゃない? もう稽古に入るの?」
「あんたたちを見てると、いらいらするの!」
シシィの剣幕に驚いて、誰も何も言えなくなった。
彼がキッチンを出て行った後、「女のヒステリーは怖いなあ」と、トラヴィスは笑うのだが、私は笑えなかった。
「まさか、シシィはルークのことを好き? とかじゃないわよね?」
私の疑問に、トラヴィスの笑い声はさらに大きくなる。
「シシィを幾つだと思ってるんだよ、ルークの親くらいの歳なんだぜ。シシィは、アナベル嬢ちゃんのことも母親みたいに見守っているから、心配でたまらないんだろうよ。わかってやってくれ。そして、情緒不安定なのは許してやってくれ」
私は胸が熱くなり、大急ぎでシシィの後を追った。
「シシィ!」
階段を上がっていたシシィが立ち止まり、こちらを見た。私は走って、彼のそばまで行った。
「ごめんなさい、私は考えなしのおバカさんなのね!」
謝る私に、シシィが微かに笑う。
「私こそ、ごめんなさい。あなたがおバカさんなのは間違いないけど、若いってことは、そういうことなのね。情熱の赴くままに、突っ走ってしまうのよね」




