すれ違う思い
「誰?」
私は扉に耳を当てた。
「俺だ」
ルークの囁き声がする。
「ルーク? なに?」
私が扉を開けた瞬間、ルークが部屋に滑り込んで来た。
「どうしたの? 何か用?」と尋ねた瞬間、彼に抱きすくめられる。
「ルーク!」
「ここなら、シシィも文句はないはずだ。……アナベル、いやか?」
私は黙って首を横に振った。
「ああ、アナベル!」
そのまま、ベッドまで運ばれる。
その後は、私も彼も情熱の渦に巻き込まれたように、激しく求め合ってしまった。
(私ったら、どうしたんだろう? ルークを見ると、変な気持ちになって、されるがまま。でも、もちろん嫌じゃない)
ルークの胸に顔を寄せ、私はため息をつく。
「アナベル、どうした?」
私は正直に答えた。
「ルーク、私、おかしいの。あなたを見ると、胸がざわついて、抱きつきたくなるの」
「アナベル! 嬉しいよ、俺も同じ気持ちだ」
ルークは嬉しそうに言い、私を抱きしめた。
(私たちの関係に未来はないわ。私は公爵家令嬢だし、ルークとは身分が違う。でも、私は “傷物” になってしまったから、王太子妃になるのはもう無理なことよね。それに、こんな顔だし)
医師が言ったように、あざはほんの少し薄くなった気もする。しかし、動いたり興奮したりすると、色が濃くなる気がする。
私はルークの腕の中で幸福感を味わいつつ、絶望感も感じていた。
あ、そうだ! ミリーの出自についての噂を、ルークに伝えなくてはいけなかった。
「ねえ、ルーク。私は、領館の管理をしているっていう女性から、面白い話を聞いたのよ」
「面白い話?」
私はルークの胸に頭を預けたまま、話を始めた。ルークは、ずっと私の髪を撫でていたが、肝心なことを伝えた時、彼の手がピタと止まった。
「伯爵の子じゃない、だと?」
「ええ、伯爵の領地では、公然の秘密らしいわ」
「そんな娘を王家に嫁がせるつもりだったのか」
ルークが呻くように言ったが、私は特に何とも思わなかった。
「でも、結局、ミリーは側妃になるのだし」
「しかし、ミリーの産む子が、次の王太子になるかもしれないんだぞ」
「未来の王妃が、御子様を産めばいいんでしょ?」
私は、疲労感からか眠くなってきて、あくびを押し殺す。
「未来の王妃。アナベル、あなたかもしれないんだぞ」
私ははっとなって、しゃんとした。
「でも、私は死んでるのよ」
「何を言ってる。とにかく、あなたを殺そうとした犯人をあぶり出したら、あなたは公爵家に帰るんだ」
ルークに語気強く言われ、私は頷いた。しかし、納得してはいない。
「もちろん、そのつもりよ。私もそろそろ家に帰りたくなってきたの。でも、帰っても、元の婚約者の地位には戻れないわ」
私は、暗にルークとの関係が邪魔をしているということを仄めかしたが、彼は何か考え事をしているようで、返事してくれなかった。




