ミリーの出生の秘密?
女性は「ああ」と頷き、「あの絵は」と語り始めた。
彼女によると、あの絵はやはりミリーのお母様のジェシカを描いたものらしく、作者は “無名画家” とのことだった。
「風景画の得意な人だったらしく、軽い病でこちらに静養に来ていたそうです。まだ跡を継いでいなかった伯爵様が、その画家と仲良くなって絵を依頼したとか」
「そうでしたか。無名画家とは思えない、素晴らしい絵でございますね」
「若くして亡くなられたそうで。名前を売る暇も作品もなかったのでしょうね。そういえば……」
彼女は突然、何かを思い出したようである。
「あの画家さん、ここに滞在後まもなく亡くなられたんでしたわ! あの絵は、いわば遺作ですよ」
正直なところ、どうでもいい情報ではあるが、私は驚いた顔をして、気の毒そうに言った。
「まあ! そうでしたか。伯爵様は、ほんとうにお優しいのですね。若い日の友情を大切になさっていらっしゃるのでしょう」
「実はね」
彼女は私のほうに一歩近づいて来た。
「画家さんは、ジェシカさんの恋人だった、なんて噂もありましたのよ」
「え!」
「私もあまり詳しい事情は知りませんが、画家さんが亡くなってすぐに、ジェシカさんと伯爵様がくっついたので、我々使用人も領内の人も驚いて大騒ぎしたものです。忘れてたわ、懐かしいなんて言ったら、あれですけど」
驚いたなんてもんじゃない。
一度話し出すと、最初の口重そうだった印象と違って、彼女はどんどん話題を提供してくれた。
「でも、お嬢様を産んですぐに、ジェシカさんも亡くなって。産褥熱っていうんですか、可哀想に。ジェシカさんを看取ったリュドミラ夫人は、ジェシカさんに頼まれたのでしょう。この領館にお嬢様が滞在している間は、誠心誠意お嬢様に尽くしていましたね」
ミリーが言っていた、世話係のおばさんがリュドミラ夫人なのか?
「私、お嬢様に言われました。私を見ていると、お世話係のおばさんを思い出すと」
「そうですか? 確かに、あなたみたいに細身で長身、とても品のある人でしたよ。私たちとは違って、紳士階級の出でしたから」
彼女はそう言ってから、急に私をじろじろと見始めた。
「言われてみたら、あなたも相当上品な感じの人だねえ。紳士、いや貴族階級って言っても通用しそうですよ」
私は、慌てて首を横に振る。
「私は卑しい役者ですよ。でも今回は、王女の母役を演じていますから」
「ああ、そうなんだ! 役者さんって、すごいんだねえ」
これ以上、彼女と話をするのは危険な気がしてきた。
「どうもありがとうございました。では」
立ち去ろうとしたところ、彼女に呼び止められた。
「あのね。内緒の話があるんだけど、聞きたくないかね?」




