探りを入れよう
「明日は、いよいよ伯爵家の野外劇場で芝居をやるんだね。どのくらいの人が観に来てくれるんだろうか」
若手俳優のジュリアンが言うのに、ルークが明るく笑って答えた。
「かなりの人が来てくれると思うぞ。地方興行は、『こんな機会は滅多とないから楽しみだった』って、毎回のように言われるからな」
一座の人は、揃って野外劇場の下見に出かけるというので、私は部屋に戻らせてもらうことにした。
ルークは、伯爵にお茶に招かれているので、ダイニングルームに行ってしまった。
恥ずかしい話だが、ルークのせいで、私は昨夜ほとんど眠れなかった。
だから、少し仮眠を取ろうと、柔らかい寝具に横たわったところ、すぐにうとうとしてしまった。
しかし、突然の胸騒ぎに私は飛び起きる。
(誰かいる!)
昨夜と同じような人の気配を感じて、私はベッドから降りて部屋中を歩き回った。
壁を叩いてみたり、耳を当ててみたり。
芝居をしていた間に、部屋は整えられていたので、絵画は元通り壁に掛けられていたが、私はこの絵が気になっていた。
(描かれているのはミリーのお母様と思うんだけど。そういえば、この絵は誰が描いたのだろう?)
結局、部屋には誰もいないし、何もない。
私ひとりが騒いでいるみたいだ。
(ここでじっとしていても仕方ない。目立たない程度に、使用人たちに話を聞かせてもらうしかないかもしれない。ミリーや、ミリーの本当のお母様の過去について)
私はそう決心して、部屋を出た。
私は何気ない風を装って、館の中をうろつく。
普段は、働いている人も少ないのだろうけれど、今は伯爵父娘が滞在しているからか、たくさんの使用人が廊下を行き来していた。
私は、その中のひとりの女性に目を留めた。
この、年嵩の女性には見覚えがある。
「あの、つかぬことを伺いますが、あなたは伯爵家で随分長く働いていらっしゃる方ではないですか?」
「あっ、はい。そうですが……? 何か?」
女性が不審そうに返事する。私は取り繕うように言った。
「いえ、突然申し訳ありません。私が子供の頃……ではなくて若い頃、このあたりに伺った時、あなた様をお見かけしたような気がして」
「そうでございますか。ええ、私は夫婦で伯爵様の領館の管理を任されているのですよ」
彼女の言葉や態度は、少し誇らしげであった。
「まあ! そうだったのですね。では、こちらのお屋敷のことも、お詳しいでしょうねえ」
私の質問に、女性は怪訝そうな顔をした。
しまった。質問が性急だったかもしれない。
「何か?」
彼女はそう言って黙ってしまった。私の出方を伺っているみたいだ。
「すみません、不躾な物言いでした。実は、昨晩、ゲストルームの絵画が突然壁から落ちてきて、ちょっとした騒ぎになったものですから。いえ、責めたりしているのではなくて、絵に描かれている女性が、お嬢様そっくりだなと思ったもので」
面倒ではあるが、焦らずゆっくり尋ねてみよう。




