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ルーク

 じんじんと疼くような顔を押さえて、私は途方に暮れていた。


「私はどうしたらいいの」


 男性は眉を上げた。それから、あっさりと言った。わざとらしく、おどけるように。


「そりゃあ、家に帰るしかないだろう? 私でよろしければ、姫君のお城までお送りいたしましょう」


「ありがとう。お父様もお母様も驚くでしょうけど、私が生きていたと知ったら、喜んでくれるわよね」


 ところが、さっきまでと違って、彼は何故か目を見開いて驚きの表情を浮かべているし、返事もしてくれない。


「何か? 私の顔に何かついてる?」


「いや。暗くて、よく見えないからだろうか」


 不審げな彼に、私は先ほどからの不安を口にした。


「私の顔、おかしいの。さっきから顔が熱くて痛い気がするの」


 男性は、何も言わず私の手を引いて、外に向かって歩き始めた。

 私たちは、墓所から出た。


 外はまだ明るかった。しかし、右目の(すみ)が、うっすら暗い。見えにくい気もする。


「どうしたのかしら。右目の辺りが痛いわ。おまけに見えにくい気もするわ」


 男性は、高価そうなコートのポケットをゴソゴソして、小さな手鏡を取り出した。それを無言で渡してくる。

 鏡を見た私は、大きな悲鳴を上げてしまった。


「顔! 私の顔!」


「……とりあえず、今から俺の知り合いの医者のところへ行こう。急ごう」


 彼は、私を抱き抱えるようにして、再び歩き始めた。

 一緒に山を下り、麓で待機していた馬車に乗った。


「あなたは一体、何者なの? あ、でも。その前に、お礼を言わなくてはいけないわね。助けてくだすって、ありがとう」


「どういたしまして」


 向かいに座る彼の態度は、慇懃(いんぎん)で紳士的である。


「体の具合はどうだ?」


 心配そうに尋ねてくれる彼に、私はもう一度質問した。


「大丈夫ですわ。で、あなたのお名前を教えてくださる?」


 馬車に乗って少し落ち着いたせいか、痛みは先ほどより感じなくなっている。


「俺の名は、ルーク。ルーク・ドレフュス」


「お仕事は何を? あっ、ごめんなさい」


 私は、質問を途中でやめて俯いた。ずけずけと、彼の身辺調査じみたことをしていると気づいたからだ。


(見た目だけで、この人を貴族階級ではないと決めつけて、上からの物言いは失礼だったわ)


「仕事はオペラ座の運営。芝居小屋の支配人をしている」


 ルークと名乗った男性は、私の屈託に気づかぬ風で淡々と答えた。


「あのオペラ座?」


「王立のオペラ座じゃない、グラン・ボヌールのほうだ」


「そちらも、もちろん知っていますわ。お芝居中心の素敵な劇場よね?」


 私は、一度だけ訪れたことのあるオペラハウスを思い浮かべる。

 どうやら彼は、身なりや職業からして、貴族階級ではなく、裕福な紳士階級らしい。

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