シシィの怒り
再び、扉を強く叩く音がする。
「アナベル! 起きてる? 大丈夫?」
「シシィ?」
扉を開けると、シシィが心配そうに立っていた。
「アナベル、ルークは? ルークは、そこにいる?」
「えっ、ええ」
「朝起きたら、ルークがいないってジュリアンが言うから、探してたの! なんかさあ、昨夜遅くに、アナベルの部屋で不審な物音や叫び声を聞いた、ってイズーが言うから心配して」
私の後ろから、ルークが焦ったように顔を出した。
瞬間、シシィの顔色が変わる。
「ちょっと。え? 何、そういうことなの?」
「何がだ?」
ルークは落ち着き払って答えるが、シシィは険しい顔をして、「どいて」と小声で言うと、部屋に入ってきた。
シシィは、せかせかと忙しなく部屋をうろついている。しばらくして、後ろから見てもわかるほど、肩を落とした。
「全くもう……。何やってんのよ! ルーク!」
シシィから、怒りをはらんだ声が発された。
「あんた、なんてことを」
「シシィ、待って。私が悪いの」
「そうね。アナベル、あんたもあんたよ! 滞在先の貴族の館で、なんてことをしてるのよ!」
私たちのほうを見るシシィは、ぶるぶる震えている。
その後に起きたことを思い出すと、顔から火が出るようだ。
私とルークは寝巻きのまま、部屋の床に正座させられ、シシィからお説教されたのだ。
「アナベル。あなた、公爵家令嬢としての矜持はどこへやったの! 男を部屋に引き入れるなんて。それだけじゃなく、体まで許してしまうなんて嘆かわしい」
「シシィ、昨夜は、この部屋に幽霊が出たらしいんだ。ひとりで過ごすなんて怖いだろ?」
「馬鹿なの? 紳士たるもの、黙ってボディガードに徹するべきでしょ!」
私とルークは、黙ってうなだれた。
「それに、ゲストルームを穢すような真似をしちゃいけないでしょ……」
シシィはまた、大きなため息をついて、ベッドに座り込んだ。
「シシィ、それは違うな。確かに、滞在先でこんなことになってしまったのは俺が悪い。でも、俺はアナベルを愛してるんだ。大事な人を愛する行為は、穢れた行為なんかじゃないだろう?」
ルークは言っているうちに、段々と怒りが込み上げてきたような表情に変わっていった。
「私が言いたいのは、そういうことじゃないわ。場所を選びなさい、ってことよ」
ルークは、うっと呟いて、また下を向く。
シシィは、私たちに対して冷たく言った。
「ああ、もういいわ。さ、早く着替えて。伯爵様が食事の用意をしてくださってるのよ、急ぎなさい」




