危険水域?
私は安堵のあまり、その場にへたり込む。
「アナベル、大丈夫か? 立てるか?」
ルークが、私の手を取り引っ張ってくれるが、私は腰が抜けたようで立てなかった。
彼は苦笑して屈み込むと、私を抱き上げてベッドまで運んでくれた。
「ルーク、ありがとう」
恥ずかしさときまり悪さで、彼の顔を見られない。
私は目を閉じて俯いて、じっとしていた。
彼は私をベッドに下ろす前に、そっと私の額にキスしてきた。
羽根のように軽いキスは、慰めの意味だろう。しかし、彼は、私のあざにキスしてきたのだ。
私は目を開けて、彼の顔を見た。
意外にも、彼は情熱のこもった目つきをしている。
「ルーク?」
ベッドに座り、尋ねる私に向かって、ルークは小声で言った。
「安心して、おやすみ」
「お願い、朝まで一緒にいて!」
咄嗟に口をついて出た言葉に、我ながら驚いた。
「わがままを言うんじゃない」
彼は苦笑して、私の横に、寝具が大きく沈むほどドスンと座った。
その仕草が照れ隠しのようにも思えて、私は余計にわがままを言いたくなった。
「一緒にいてくれないと、怖くて眠れないわ」
「何が怖いんだ? 幽霊なぞいない」
「あなたがいなくなった途端に現れるかもしれない」
「仮に幽霊がいたとしても、奴らは何も出来ない。実体のない存在じゃないか」
私は言葉に詰まるが、負けずに言い募った。
「幽霊は怖いの!」
意地の張り合いみたいだが、もう後に引き返せない。
「アナベル。幽霊なんぞより、俺のほうが怖いぞ」
「何を言ってるの?」
「あなたのような無垢な令嬢は、何もわかっちゃいない。男の欲望や下種さを」
この時になって、ようやく私は自分が危険水域に踏み込んでいることに気づいた。
でも、何故か怖くない。思い切って奔流に身を委ねてみたくなった。
「まさか、ルーク。あなたは、その。私を思いのままにしたいわけ?」
ルークは黙って頷いた!
「そう。……構わなくてよ、覚悟はできています」
「えっ?」
ルークは、少しベッドから腰を浮かせた。
「こうなることは決まっていた気がするの。一度死んだ私を、あなたが助けてくれた時から」
「アナベル」
「これ以上、私に恥をかかせないで」
ルークにいきなり抱きすくめられ、私は寝具に押し倒された。
「いいのか? もう引き返せないぞ」
「ええ」
不思議と怖くない。相手がルークだからだろうか。
彼の美しい顔が迫ってきて、私にくちづけてくる。彼はそのままの体勢で、器用に洋服を脱いでいった。
アルフォンソ老の、『ルークは夜を過ごす女もたくさんいたようじゃが』という言葉が、頭の片隅をよぎる。




