不気味な気配
その夜、豪華な歓迎ディナーの後、私たち一行は、離れにあるゲストルームに案内された。全室、二台のベッドが用意されている。
今回は少人数での興行だが、一座で女性は私だけ。ひとりで広い部屋を使うのは申し訳ない気がした。
「でも、私とアナベルが同じ部屋ってわけにはいかないもんね」
「当たり前だろ。シシィは一応、男だからな」
「あら、でも私は安心安全よ」
「ダメだ。俺が許さん。アナベルは、元々公爵家令嬢だぞ。俺らみたいな下々の人間と、同じ部屋で過ごさせるなんてことはできん」
ルークとシシィの会話に、私は割って入る。
「私なら、全然構わないんだけど。ねえ、シシィ」
「ねえー!」
にっこり笑い合う私たちに、ルークが「ダメだ」と冷たく言った。
結局、私はひとりで広いゲストルームで過ごすことになった。
「それじゃ、おやすみなさい」
「明日は、伯爵家令嬢にお会いするのは午後からだ。だから、みんな、明日の朝はゆっくりでいいぞ」
「わかったわ、おやすみなさい」
「おやすみ」
「お疲れ様」
一座の皆、口々に挨拶を言い合い、それぞれの部屋に引き取った。
部屋のドアを開けた瞬間、何故か背筋がぞくっとした。
(何だろう? 何か嫌な気配を感じたわ)
だが、その奇しい気配はすぐに消えたので、私の思い過ごしだろう。
(このところ、占い師としてカードを使っているから、不思議なものに囚われているのかもしれない)
私は着替えて、ベッドのふかふかの寝具にもぐり込んだ。緊張から解放されて、すぐにうとうとし始める。
しかし、どこからか人の声が聞こえた気がして、目が覚めた。
横たわったまま、息をころし、耳を澄ます。
しばらくそのままの状態でいたが、何も音はしない。
気のせいよね? さっき、嫌な気配を感じたからよね、きっと。
ところが。
ガシャン! と音がして、壁に飾ってある絵画が落ちてきた。
「きゃあ!」
思わず悲鳴が出て、跳ね起きた。ベッドから降りて、おそるおそる、額が落ちている床まで近づく。
絵画は、なんということもない田園風景が描かれたものだ。おそらく、伯爵家の領地であろう。絵の隅っこには、若い女性が小さく描かれていた。
(部屋の調度品なんか、気にしていなかったわ。この絵、何が描かれているのかしら。明るいうちに、よく見ておけば良かった)
額を拾って壁に立てかけた。その際、カーテンの隙間から漏れる月の光に、絵画が照らし出された。
私は目を凝らして、絵を眺める。
(この女性は! ミリー?)




