ミリーの実母②
「ミリ……いえ。お嬢様は、では、ご静養にはおひとりで来られていたのですか?」
「いいえ、ほとんど私が一緒でしたが。何か?」
さすがに、伯爵は不審に思い始めたようだ。
私は慌てて、質問の意図をでっち上げることにした。
「この素敵なお屋敷に、奥方様の念でしょうか、何かがあるのを感じたものですから」
途端に、伯爵の顔色が変わった様子だった。
「何かとは? それは怒りとか、そういった類いでしょうか」
焦ったように尋ねてくる伯爵には申し訳ないが、とりあえず上手く行ったみたいだ。占いに神秘性を持たせる意味でも、良いことが言えた気がする。
「いいえ、そういったものではなく。むしろ、暖かく優しいもの。お嬢様を見守るようなもの。……奥方様が来られていないとしたら、一体誰の思念でしょう?」
「そ、それは。まさか、ジェシカの」
「ジェシカ?」
「ミリーの実母です。亡くなった……」
伯爵は困惑したような顔で答えた。
その瞬間、私の記憶が一気にあふれ出した。
(思い出した!)
ミリーが「お母様」と呼んでいた人。その人は、ミリーに似ていたような気がする。
まだ年若い、今のミリーそのもの、といっていい女性。
まさか。
ミリーの実母は、ミリーを産んですぐに亡くなったって、さっき伯爵は仰ったわよね?
「ジェシカ……! ああ、彼女は死んでも娘のことを心配しているのか」
伯爵は両手で顔を覆い、泣いているように見える。
私は思わぬ展開に、正直困っていた。
この立派な人を傷つけてしまったようで心苦しい。
神よ、お許しください。
でも今は、心を鬼にして、このまま突き進むしかないのだ。それに、彼はミリーのお父様なのだ。仇のひとりだと思うのよ。
だが、どういうことだろう。私が子供の頃、毎年のように会っていた女性は誰なの? ミリーの本当のお母様としか思えない、そっくりな女性。
背筋がぞくっとした。
しかし、謎は置いといて。今はとにかく、占い師に徹しよう。
「伯爵様、では占わせていただきたいのですが」
「あっ、ああ。お願いします。王太子様のお気持ちを。そして、私たちはどうすればいいのか、ご教示くだされば幸いです!」
伯爵は、今やすっかり私のことを、占い師や霊媒師として信用しているようである。
(困ったわ)
私は、悩みつつ、伯爵に指し示されたテーブルの上にカードを広げていった。
マホガニーの磨き込まれた机は、伯爵の私室にぴったりだ。
(金ぴかの豪華なテーブルではないところに、伯爵の御人柄が偲ばれるみたいだわ)




