ミリーの実母
「もうひとつ。差し支えなければ、お答えくださいませ」
「何でしょう」
「立ち入ったことをお伺いいたしますが、お嬢様の本当のお母上は、伯爵夫人ではありませんね?」
私の質問に、伯爵は驚きの表情を見せ、呟くように言った。
「そうか。もう世間では、当たり前のように知られていることなのか」
「申し訳ございません。王宮に伺った際、皆様が仰っていたので」
私は、何故か伯爵が気の毒に思えて、弁解口調になる。
「娘ミリアムの実母は平民なのです。領内の農民の娘です。私がまだ若い頃、領地を訪れて知り合いました。黄金に輝く髪や肌が印象的な、野生の馬のように美しい娘でした」
ミリーも美しい金髪、黄褐色の肌と瞳の持ち主だ。対照的に、私は青みがかった黒髪に碧い目。
王太子様は、元々ミリーのような容姿がお好みだったのかも……。
しかも、毒のせいか、私の髪はほとんど白くなり、絹糸のような艶やかな黒髪と褒め称えられたのが、嘘のような有り様なのだ。
「お嬢様の実母に当たる方は、今はどうしていらっしゃるのですか?」
「娘を産んで、すぐ亡くなりました」
「まあ!」
「残酷なことに、私は娘の養育を妻に任せたのです。もちろん、実際に育てたのは乳母ですが」
ミリーの出生や生い立ちの不幸、私は全然知らなかった。
でも、もしかしてミリー自身も知らないなんてことはないかしら?
「ミリアムは全て知っています。妻の冷たい態度を見ていれば気づくでしょう」
胸が痛い。
子供時代のミリーの姿を思い出し、私は悲しくなった。
(アナベル、しっかりしなさい。ミリーには酷い目に遭わされたのよ。同情なんてしてる場合じゃないわ!)
「私たち夫婦は、とうとう子供に恵まれることはありませんでした。その負い目もあるのでしょう、妻は、表面上は、ミリアムを我が子として受け入れている態度でしたが」
伯爵から話を聞いている間、私の頭の片隅に、もやもやした疑問のようなものが浮かんでいた。
子供の頃、この別荘で、何度か伯爵夫人にお会いしていた記憶がある。
たしか、ミリーも、「お母様」と呼んでいた貴婦人だった。
そして、毎年の新年には、王宮で、私は伯爵夫人にお会いしていたはず。
なのに何故か、彼女の姿がはっきりしない。そんなことって、あるだろうか?
「伯爵、奥方様は、毎年ここにご静養に来られていましたか?」
奇妙な質問と取られるかもしれないが、聞いておかねば。伯爵は、あっさりと答えてくれた。
「妻ですか? いいえ。ミリーが産まれてからは一度も」
何ですって?!
では、私がここでお会いしたミリーのお母様って、一体誰?




