招待
早くルークに伝えたい。ミリーが婚約破棄されて王宮を出た、ということを。
しかし、私たちが演技している間、ルークの姿はなかった。いつもどこかで見てくれている彼がいないと、心細い気がする。
私の芝居には、見守ってくれる彼の存在が必要なのだと痛感した。
芝居が終わり、万雷の拍手の中、退場する私たちをルークも拍手で迎えてくれた。いつの間にか、彼は広間に来ていた。
「お疲れさん。我々の出番も明日で終わりだな。今回は、最初から大成功だった」
ルークは、まるで昨夜のことなどなかったかの様子。
安心すると同時に、何故か私は、少しがっかりしていた。一体、昨日のあのルークの告白は何だったのだろう。あの情熱的なキスも。
「アナベル、せっかく慣れてきたところで終了は残念だが、今後も一座の女優として頑張ってくれるか?」
「もちろんよ」
突然話しかけられてどぎまぎしたが、意外にも私は普通の返事が出来た。
「女優だから、かしら」
「なに? 何か言った?」
シシィに聞かれ、はっとする。
頭の中で思ったことが、無意識のうちに口をついて出たらしい。
「あ、ううん。なんでもない」
(私は女優だから、何もなかったかのように振る舞えたのかも。いつのまにか、私は演技することが当たり前の人間になっている?)
そして、劇場に帰ってからのこと。
いつもの反省会の際に、ルークが言った。
「しばらく我々一座は、伯爵家の領地周辺で興行を打つことになった」
「伯爵家の領地ですって?」
「そうだ。王太子から直々に頼まれた。いわば、伯爵家令嬢を “お慰めする” 興行だ」
私たちにルークが説明したところによると、王太子妃から側妃に格下げになったミリーへの慰問興行なのだそうだ。
今日、彼が別行動だったのは、王太子様にお会いしていたからだ、とわかった。
「伯爵家の領地に入りこめる、またとないチャンスだ。ミリーに自白させて復讐も出来るかもしれないぞ」
ルークの言う通りだ。
でも、そんなにうまい具合に事が運ぶだろうか。
それに、復讐は私の個人的な望みであって、やはり一座の人を巻き込むのは気が引ける。
しかし、その場にいた劇団員、とりわけシシィは乗り気らしく、張り切っている様子が窺えた。
「すごいじゃない! やり甲斐のある芝居になりそうね。ルーク、早速、台本を書かないと」
「台本? 新作をやるのか?」
トラヴィスの疑問に、シシィがじれったそうに答える。
「お芝居自体じゃなくて、復讐をどうやるのか? っていう台本よ!」
「ああ、なるほど! 確かにそうだな。頼んだぜ、ルーク。良い台本を書いてくれ、隙のない面白いヤツをな」




