伯爵から占いの依頼
私の返事に、伯爵以下、その場にいた全員が驚いた顔をする。
(しまった! 声が若いと思われたかしら)
しかし、伯爵は何事もなかったように微笑をたたえ、
「良いお声ですなあ!」
と感心したように言ってくれた。
「伯爵様、私の占いは当たると評判ではありますが、なに、素人風情と笑われても仕方ない程度のもの」
焦った私は、出来るだけ低い嗄れ声で答えた。
「ご謙遜めされるな。実は、折り入って頼みがあります」
伯爵の言葉に、全員に緊張が走った。
「占っていただきたいことがあるのです」
(私に、何を占えと?)
「申し訳ないが、しばらく二人きりでお話しさせていただきたいのだが」
ルークが返事しかけるのを、私は頷いて彼を制した。
「占い師への相談事を、自分以外の他人に聞かれるのは嫌なものです。それは身分に関わらず、誰でもそうでしょう。伯爵様の執務室にでも伺いましょうか?」
「おお! そうしていただけたら、ありがたい」
一座のみんなが心配そうに見送る中、私は伯爵と共に、別荘の奥へと進んで行く。
(ここには何度も来たことがある。勝手知ったる、というほどではないけど、いざとなれば逃げ出すことは可能だわ)
「こちらです」
伯爵自らの案内で、私は彼の私室に入った。
「伯爵様、で、何をお聞きになりたいのですか?」
「王太子様が何を考えているのか、知りたいのです。あんなに娘のことを求めてくださって、『愛妾などにする気はない、絶対に王太子妃に迎えるから』と仰っていたのに。だから、私も公爵令嬢に申し訳ないと思いながらも許したのに」
“鼻白む” というのは、こういう感情を指すのか。
一瞬にして、白けるような、不愉快な気持ちになった。
王太子様が『あんなにミリアムを求めて』いたなんて。
……がっかりしている場合じゃない。ここでしっかり聞いておかねば。
「つまり、王太子殿下のほうからのアプローチであった、ということでしょうか?」
「少なくとも、私はそう思っていた」
苦渋の表情を浮かべる伯爵。
この方の言葉に、嘘や偽りはない気がする。
「占う前に、もう少しお聞きしたいことが」
「なんなりと」
「お嬢様は、ここにご静養に来られているとのことですが、お嬢様のお母上もご一緒なのですか?」
私の質問に対して、伯爵は目を逸らした。
「妻は来ておりません」
私は、伯爵夫人のことを思い出そうとしたが、ぼんやりとした姿しか思い出せない。
あまり表に出ない方ゆえか、お会いするのが年に一度くらいだからかもしれない。
(何故かしら。どんなお顔の、どんなお姿だったか、忘れてしまったみたい)




