伯爵家の別荘
伯爵家の領地と、我が家の領地は隣接している。
だから、子供の頃に避暑に訪れた際、私とミリーは仲良くなったのである。
あの頃が懐かしい。
ミリーは幼い頃から、優しくて思いやりのある子だったと思う。
長年にわたる友情は、幻だったのだろうか。
若草が芽吹く、広大な土地を見ているうちに、涙が出てきた。
私が元気だったら、おそらく今夏も静養に訪れていたはず。しかも、王太子妃として。
未だに、ミリーが私に毒を盛ったなんて信じたくなかった。しかし、あのミリーの邪悪な顔つきは、全てを覆すものだった。
「素晴らしいところだな」
「ルーク」
「あなたにとっては、思い出が詰まった場所なのだろう?」
「ええ。公爵家の領地はすぐそこよ。ほら、見えるでしょ?」
私は、横に立つルークに、真正面に見える遠くの丘を指差した。
「あの丘の向こうが、公爵家の領地なの。今、お父様とお母様も静養に来てらっしゃるのね」
「今回は、伯爵家の館で、その後は領地内で無礼講の公演がある。いろいろとやりにくいだろうが、演技と歌に専心することだ。大丈夫、あなたならきっと上手くやれる」
「頑張るわ」
「俺は、その間にあなたを伯爵家に売り込むつもりだ」
「売り込む?」
「今回は、伯爵自身も一緒に静養に来ているんだ。伯爵に、あなたを占い師として売り込む」
私を? 今度は伯爵家に?
伯爵家を訪れた私たち一行は、伯爵から大歓迎された。
「娘ミリーは、すっかり気落ちしております。慰めるには、あなたたちご一行のご助力が必要だと思った。実を言うと、あなたたちの素晴らしい演し物に、私自身が心を奪われてしまったのです」
ミリーのお父上は、昔から誰に対しても公平で優しく、紳士的な態度を崩さない方である。領民に対しても、寛大で尊敬される領主なのだ。
「それにしても、王太子様が、あのように冷たい方とは思わなかった」
苦悩の表情を浮かべ、吐息混じりに言うゴールドウィン伯爵。
私は彼の顔を見て、意地悪な気持ちになった。
(この方は立派な方だけれど、娘のしでかしたことを、どう思ってらっしゃるのかしら)
結婚前に妊娠するなんて、貴族令嬢のすることじゃないわ。恥ずかしい、はしたない真似と誹られる行為じゃないの?!
もちろん、ミリーだけが悪いんじゃない。王太子様も同罪ではあるが。
でも、私という婚約者がいながら、王太子様を寝盗るなんて、どう考えても異常だわ。
もし、私がミリーの立場だったとしたら、お父様はどう思うかしら? お母様は?
ふと、私の心に、むくむくと疑念が湧き起こった。
(まさかだけれど、この方も “ぐる“ ……?)
「そこにいらっしゃる占い師さんは、本物の占い師さんだと伺いました」
突然、伯爵に声を掛けられ、びっくりする。
「わ、私でございますか?」




