王太子の変心?
「ダイヤの女王」
1枚目に出たカードに、びっくりした私は水晶玉を覗き込んだ。もちろん、何も見えたりなぞしないのだが。
しかし、さも何かが見えたかのように驚いてみせた。実際、とても驚いていた。
(まさか、クイーンのカードが出るなんて。しかも、ダイヤの)
私は昨夜、占い師の人から貰った小冊子で、カードの意味一覧を必死で覚えたのだ。
ダイヤのクイーンは、まさに女王そのもの。但し、虚栄心が強く権力欲のある。
大人しそうで、優しげなミリーに似つかわしくないカード。
王太子様に、どう説明したものか。
「王太子妃様、でなくて王太子妃候補様は、かなり虚栄心の強い方ですね」
軽く探りを入れるように言ってみた。
「うーん。そうかもしれない」
王太子様は否定しない。ならば、これはどう?
「おまけに権力欲、権勢欲にまみれたお方」
「やっぱり!」
王太子様は否定せず、大きく頷いた。
「水晶の中に、邪悪な笑みを浮かべて立っているのが見えますぞ」
私は、“死ぬ” 直前に見た気がする、ミリーの顔を思い浮かべていた。
「得心が行きました。やはり彼女は、側妃のままにしておきます」
あまりにも順調に事が進んで行くことに、胸がどきどきする。
そうだ、釘を刺しておかねば。
「王太子様、私の占いによるもの、とは決して言わないでくださいませ。占いの結果を他言すると、悪いことが起きるかもしれませぬゆえ」
「もちろん! 私が決めることです。いや、私は既に決断していたことに対して、背中を押してほしかったのかもしれません」
王太子様は、きっぱり言った。
その夜、私の報告を聞いたみんなは、驚きと喜びを顕にした。
「そんなカードが出たんなら、間違いないかもしれないわね」
シシィは感心している。
「明日は更に、アナベルの売り込みに力を入れるとするか」
「売り込み?」
「今日、あなたが王太子の部屋で占っている間、観客の貴族の方々に、俺たちはさりげなくあなたのことを吹き込んでおいたのさ」
「吹き込んだ? 何を?」
「あなたは国を動かせるほど力のある占い師だ、って言っておいた」
「ルーク、空恐ろしいことを!」
呆れる私に、ルークはしれっとした態度で言う。
「仕方ないさ。貴族の方々が何人も、『あの占い師さんは本物ですか?』って尋ねてくるんだから」
どうやら、王太子様があまりにも熱心に私たちの芝居を観ていたのが、周囲の目を引いたらしい。
「俺の計画では、このままアナベルが王家の専属占い師になる、って流れなんだが」
「そんな上手く行くかよ」
黙って酒を飲んでいたアルフォンソ爺さんが吹き出した。
「おまえさんの台本は、あまりにも都合が良すぎる」
王太子様には、私のアドバイスだということは、言わないよう口止めしておいたが、彼は口を滑らすような気がする。
私を排除してまで王太子妃になりたかったミリーが、あっさり引き下がるとも思えないし。
占い師の言葉を鵜呑みにして、自分を側妃にしておくつもりなのか! と、逆上する姿まで見える気がした。




