王太子様の内心
「アナベル、任せた。良い報告を待ってる」
ルークに囁かれる。
私は頷き、お付きの方と一緒に広間から出た。
連れられて行った先は、王太子様の私室。
「では、ごゆっくり」
お付きの方が出て行った後、私は部屋をゆっくりと見て回る。
(懐かしいわ)
ここには、何度か来たことがある。
いつも二人で仲良く話をして、時には芸術家を招いて音楽を楽しんだり、書物を楽しんだりしたものだ。
(私の何がお気に召さなかったんだろう。あんなに仲良く過ごしていたのに)
物思いに耽っていると、扉をノックする音がして、王太子様が現れた!
「王太子様、失礼いたします」
私は、膝を曲げて低い姿勢で挨拶した。
「そこに、お掛けください。あなたの占いが楽しみで仕方なかった。正直、今日の芝居は上の空でした」
そこまで、楽しみに待っていてくれたとは。
「身に余る光栄にございます」
「あなたのことは、何てお呼びすればいいでしょうか?」
しまった、何も考えていなかった。
シシィたちは芸名があるけれど、私は “占い師” であって、役名も芸名もないのだ。
私は必死で頭を働かせる。
そうだ!
神秘性を保つ為に名前はないことにしよう。あくまで “占い師” であって、人格を持たない存在として。
「アンコニュと、お呼びくださいませ」
「アンコニュ?」
「誰にも知られぬ存在として、お心にお留置きください」
「誰にも知られぬ存在……」
王太子様は、私の言葉を繰り返した。
「さて。何を占えばよろしいでしょう?」
私が尋ねると、王太子様は困ったような顔をして、私の座る場所まで近づいて来た。
「実は、私はミリアムを王太子妃に迎えて良いものかどうか、迷っています」
「えっ?!」
王太子様の口から思いがけない言葉が出てきて、私は反応してしまった。いけない、占い師が動揺するなんて。
私は慌てて目を伏せ、「で?」と短く答えた。
「彼女が身籠ってしまったので、王太子妃に迎えることにしましたが、やはり側妃のままにしておいたほうがいい気がしています」
「なるほど。では、そのことについて占うといたしましょう」
「お願いします」
王太子様は、ホッとした様子を見せた。
意外な成り行きだが、チャンス到来ではないだろうか? 心の中で舌なめずりする。
『側妃どころか、今すぐ彼女を追放せよ!』とでも言ってやろうかしら。
しかし、いきなりそんなことを言っても、王太子様は受け入れない気もする。
ほぼ初対面の占い師なのだから、全面的に信用するわけないだろう。
(焦らないで、アナベル。じわじわと追い詰めるのよ、私を殺そうとした犯人を。とにかく、王太子様の懐に入り込まないと。復讐はそれから)
私は落ち着き払って、トランプのカードを切る。
初めてのことなので、緊張のあまり、少しだけ手が震えた。




