面罵されて
翌日、私たち一行は、再度王宮に乗り込んだ。
私たちの芝居を楽しみにしてくれている貴族も多く、会場となっている広間は既に大盛況である。
私も度胸がついたのか、自分の真の姿を知られる心配より、上手く演技できるかどうかだけが心配だった。
おそらく芝居の後、王太子様は私をお呼びになるだろう、 『占いを見せてくれ』と。
今日は、芝居も何もかも、失敗するわけにはいかない。
だが、私は少々楽観視していた。
昨日、占いを間近に見せてもらい、おおよその手順は覚えた。占い師の老人は、カードの意味を纏めた薄い冊子もくれた。彼からのアドバイス、それは、『自分は占い師だと思い込むことが大事』ということだった。
いよいよ芝居が始まる。
王太子様とミリーは、最前列で座っている。
今日の演し物は、初っ端から私がメインの芝居である。
占い師の予言により、追い詰められる王とその妻の人間劇に、観客が固唾を飲んでいるのがわかった。
私も、肩に力が入ってしまっていたのだろう、ヴェールがずれてしまった。明るい日の光が私の顔を照らした瞬間、ミリーが悲鳴を上げる。
(しまった! 気づかれた!?)
慌てて、ヴェールを頭から被り直したが、ミリーが嘲るように言った。
「怖い、なんておぞましいの! あの老婆の顔!」
私の正体に気づいたのではなく、右目の周辺に浮かび上がる青あざを見て、彼女は叫んだのだった。
私は深く傷ついた。立っていられないほどの衝撃を受けていた。
その時、脇で見守ってくれていたルークが、小走りで “舞台” に現れた。
彼は私の肘のあたりを掴むと、背中のほうから支えてくれる。
「ルーク……」
弱々しく言う私に、ルークは、
「しっかりしろ」
励ますように囁くと、広間にいる貴族たちに向けて叫んだ。
「卑しい身分の老女といえど、占い師も一人の女性です。顔のことを言われるのが、どれほど辛いことか。皆様、お察しください」
ざわついていた広間は、一瞬にして静まり返った。
やがてあちこちで、御婦人方が囁き交わす声が聞こえてきた。それは声というより雑音。
「たしかに、その通りですわ。顔のことを、とやこう言うのは下品」
「王太子妃も、残酷な物言いですわね」
「あの方は “あれ” ですもの。失礼なことも、平気で言えるのですわ」
「そうね。お生まれが卑しいから、仕方のないことかも」
「聞こえますわよ、皆様」
澄まして言う御婦人方の言葉が、ミリーに聞こえないはずがない。むしろ、ミリーに聞こえるように、彼女たちは言っているのだから。
ミリーの顔は、見る見るうちに赤くなってきた、面白いほどに。
(想像以上に、ミリーは嫌われているのね)
彼女の出自は、自分ではどうしようもないことだが、私から王太子様を盗んだことは、思ったよりも世間の反発を買っているのかもしれない。
王太子様の顔をそっと盗み見ると、色白の彼の顔は紅潮し、体はぶるぶる震えていた。




