ジプシーの男性
お腹を突き出すようにして歩いてくる彼女を見た瞬間、頭に血が上った。
必死に自分に言い聞かせる。
(アナベル、落ち着くのよ。今の私は、占い師の老婆)
「ここでは無理です」
(よかった。なんとか、低いしゃがれ声を出せたわ)
そんな私に、ミリーが馬鹿にしたように言う。
「あら。ご自分の腕前に自信がないのかしら?」
「ここは賑やかです。占いというものは、静かな場所で集中して行わねばなりませぬ」
「なるほど。確かに、言われてみればそうだな」
王太子様は、顎に手を当て考え事をするかのようである。
ミリーが興味なさげに言った。
「そうなの。じゃ、もういいわ」
王太子様は、どう出るか。
彼の性格からいって、『では、静かな環境でやってほしい』と、言いそうな気がした。
「では、場を設けましょう! あなたの占いを見てみたいのです」
王宮から劇場に戻る道すがら、私は興奮を抑えきれなかった。
そんな私を、ルークは目を細めて眺めている。
「アナベル、あなたという人は、なんてすごいんだ。大した度胸だぜ。これで、一気に局面が変わった」
「局面? どういうこと?」
「あなたなら、王太子に気に入られて、お抱えの占い師にだってなれるかもしれん」
「それは無理よ」
吹き出した私を見て、ルークもおかしそうに笑った。
「でも、王宮に入り込んで、占い師として、お近づきになれたら……。復讐の第一歩よね」
もう、そこまで話が進んでいるような気がして、気持ちは逸る。
劇場に戻った私たちは、早速、占いの準備にとりかかった。ルークはどこかに使いをやって、本物の占い師を呼んできた。
その人は初老の男性で、一定の場所に定住しない “ジプシー” と呼ばれる、芸能集団の人らしかった。
男性は、絵が描かれたカードと、大きな水晶を持参していた。
「最初に言っておく。占いなんてものは、付け焼き刃で出来るもんじゃないんだよ」
「それはそうだが。本物の占いは必要ないんだ。今はそれっぽく、おやじさんみたいにベテランっぽく見える技を伝授してほしいんだ」
「それなら、役者であるあんた方のほうが得意だろうに」
彼は、鮮やかな手捌きでカードを切る。
テーブルの上にカードを扇型に並べ、何枚か選ぶと、順番に裏返していった。
「キング、スペードのエース、ダイヤの7……」
彼は一呼吸置いて、最後にもう一枚引いた。
「ハートの女王!」




