王太子様からのお誘い
劇場に戻って、反省会と称した酒盛りが始まった。
グラン・ボヌール一座では、芝居がはねた後に、ルークが招集をかけることがある。
『あそこはこうすればよかった』『あの場面の誰それの演技はよかった』などと、自由に意見を述べ合うのである。
「アナベル、素晴らしかったわ!」
シシィの言葉を受けて、トラヴィスも褒めてくれたが、ルークの反応は違った。
「アナベル、素晴らしい演技だったが」
「が?」
「あの台詞は、“当てこすり” と受け止める人もいる。変に目立ってはいけないから、さらりと演じてくれ」
「そうか? 目立つくらいで、丁度いいじゃねえか」
「皆が皆、トラヴィスみたいな単細胞じゃないからな」
その場にいた劇団員が全員笑って、そこで話は終わったが、たしかに感情的になってしまっていたかも。
その後、部屋に下がろうとした私を、ルークが呼び止めてきた。
「アナベル、あなたは唯一無二の女優なんだ。そのことだけは覚えておいて」
そこまで私のことを買っていてくれたなんて!
「あと、もうひとつアドバイスだ。芝居は、自分ひとりで作るものじゃない。周囲とのバランスも考えて演技するように」
ルークは優しい目をして言った。
「おやすみ、良い夢を!」
翌日は、私は落ち着いて演じることができた。
ルークに注意されたのもあったし、初日を終えて余裕が出来たのもあっただろう。
芝居のあいだ、広間の片隅で見守るように佇むルークを見ると、尚のこと余裕が出てくる。
二日目も、観劇した貴族の方々は熱狂したように、盛大な拍手と声掛けをしてくれた。
私たちが撤収し、次の催しが始まった頃、私は王宮の廊下で、王家にお仕えしている方に呼び止められた。
(この方は、王太子様の直属の部下だったかしら)
男性の顔に見覚えのある私は、驚きと緊張で棒立ちになる。
落ち着きなく、ヴェールの上から更に手で顔を覆う私に、その方は満面の笑みでもって話しかけてきた。
「国王陛下と王太子殿下が、午後のティーパーティーに、ぜひ参加してほしいと仰っているのですが。お時間はありますか?」
突然の申し出に声もない私だったが、(これはチャンス!)とも思った。
ティーパーティは立食形式で、さまざまな身分や職業の人が参加する。その中を、王族の方が回られて楽しく会話するのだ。
(その時に、参加者に色々探りを入れることが出来たら……!)
「劇団主催者や劇団員全員、参加しても宜しいのでしょうか?」
はやる心で返事してしまった。いけない! 今の私は占い師の老婆だった。
幸い、相手の方は、特に私の声の変化に気づくこともなく、
「もちろんでございます! ではまた後ほど」
と答えて、他の方を誘いに行った。




