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初舞台

「しぃっ、静かに、皆様方。そろそろ始まるみたいですことよ」


 我に返った私は、顔を上げた。

 広間の中央にルークが進み出て、深々とお辞儀している。


「まあ、なんて素敵な男性かしら!」


「ほんと。役者風情にしては、惜しいような品もありますわね」


 先程のご婦人方が囁き交わす。彼女たちの顔は、紅潮している様子。


「でも役者なら、一晩いくらで買えるのではないかしら?」


「奥様、男娼と役者は違いますわよ」


「皆様、下品ですことよ」


 本当に。耳を覆いたくなるような会話。

 男娼なんて存在、本当にいるの? まさか、貴族がそんなモノに手を出しているの?

 ルーク、あなたはそんなことしていないわよね?!


 ルークは、座が静かになるのを待っているように見えた。

 しばらく経って、彼は咳払いして口上を述べ始める。


「声も艶っぽいわ」


 誰かがため息と共に、言葉を吐き出す。

 ルークは、その声が聞こえたのかどうかわからないが、微笑んで広間をゆっくり見回した。


「本日の公演は、我々一座のプログラムから名場面を抜粋したものです。ごゆるりと、お楽しみください」


 彼の口上が終わると同時に、私は彼と入れ替わりに部屋の中央に進み出た。


「呪いじゃ」


 大きく息を吸い込んでから、私は、自分が出せる最も低い声で呟いた。

 瞬間、広間に集まっている方々の間に、緊張が走ったようだった。


他人(ひと)の持ち物に執着し、横取りするような人間は、先祖からの呪いが掛けられておるのじゃ。やがて、その呪いは、そなたを破滅へと導くであろう……」


 何人かの人が私の台詞に反応して、ぴくりと体を動かす。足を組み直した貴族もいれば、扇子で口元を押さえ眉を顰めている女性もいる。


 この台詞はもちろん、ミリーを意識したもの。私の立っている位置からは、彼女の姿が見えないのは残念だ。


 元々は、『女でありながら男の(なり)をするような娘は、先祖からの呪いが掛けられておるのじゃ』である。ルークが昨日、書き換えた。


 王女クリスティーナに扮したシシィが現れ、クリスティーナの『我が命尽きるとも』という歌の一節を歌う。

 私は、 “手応え” を感じていた。

 シシィの歌声に聴き入っている人たちは、すっかり舞台に引き込まれている。


(私の初舞台は成功したわ!)


 私はそろそろとステージ中央から去って行く。

 歩き方も相当練習した。もちろん、老婆の歩き方だ。

 ちら、と王族方が座ってらっしゃるほうを見た時、ミリーと目が合った。


 彼女は、強い目で私をじっと見ている。

 ヴェール越しに、私も睨み返した。

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