王宮からの招待
そんなある日のこと。
アルフォンソ老が、耳よりな情報を仕入れてきた。
「王宮で芝居を?」
「そうだ。軽い楽しい、簡単な寸劇をご所望とのことだ」
「ふーん」
「どうした? ルーク」
「爺さん、俺はあんまり気乗りしねえな」
「いやなのか? せっかく、国王陛下のご指名なのに」
「俺らの芝居は、この小屋に来て観てもらうのが一番なんだよ」
「そりゃまあ、そうだ」
私は、一座の芝居を毎日舞台袖から観ているので、ルークが言っているのは当然のことだと思った。
セット、衣装、もろもろ全て、 “簡単な寸劇” なんて無理な舞台なのだ。
「しかし、チャンスだよ? アナベル嬢も、街の様子を知りたいだろう? もう随分と、お家にも帰っていないし、王宮内のことは気になるだろう?」
それはその通り。
お父様とお母様が未だ静養中ということは、一座の人から教えられて知ってはいるものの。
「言われてみれば、確かにそうだなあ。……よし、わかった! ”王女クリスティーナ” の名場面を、いくつかピックアップして歌で繋ごう」
ルークは、何かいいことをを思いついたようで、笑顔になった。
「そうと決まれば、早速書くか!」
「今から?」
アルフォンソ老が尋ねると、ルークは頷いて台所から出て行った。
「あの様子だと、また徹夜だな」
ルークは乗ってくると、一晩中、台本を書くこともある。
「もうずっと、私がルークの部屋を占領しちゃってるから、お二人にはすっかり迷惑をお掛けしてますね。ほんとうにすみません」
頭を下げる私に、アルフォンソ老は優しく言ってくれた。
「いやいや、気にしなさんな。アナベル嬢ちゃんが居てくれるだけで、グラン・ボヌール全体が明るくなってるんだからね」
「そんなふうに言って下さると嬉しいけど、何かご恩返ししたいと思ってるのよ」
「それなら」
アルフォンソ老は、悪戯っぽい目をして言った。
「嬢ちゃんが、ルークのお嫁さんになってくれるのが一番なんじゃないか」
「えー?」
「冗談じゃよ」
私の反応を見て、アルフォンソ老は慌てて否定した。
「ルークとは身分が違いすぎるかなぁ。ルークのご先祖様は一応、貴族なんじゃが」
アルフォンソ老によると、ルークのご先祖様は、隣国の貴族だったそうだ。
しかし、半世紀ほど昔にクーデターが起きて、主だった貴族は近隣国に散り散りばらばらに逃げて行った。
その際、ルークの一族は我が国に亡命し、いつしかグラン・ボヌールの経営に携わるようになった、ということだった。




