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芝居の稽古②

 しばらくの間、ルークは熱心に私の顔に化粧を施していた。

 私は目を閉じて、されるがまま。


「これでどうだ?」


 ルークの声に目を開けると、鏡の中には私じゃない女性がいる。


「これが私?」


「そうだ。色気たっぷりの悪女風に仕上げてみた」


「信じられない! 化粧で、こんなに変わるの?」


 もちろん、顔立ちは変わっていないのだが、全然別人に見える。ずいぶん年上の女性に見える。

 青あざも薄くなっている。左目尻に大きめの付け黒子を施されているのも、右目のほうに視線が向かないようにとの配慮だろうか。


 ルークにそれを伝えると、彼から驚くべき提案がなされた。


「アナベル、芝居をやってみないか?」


「芝居を?」


「うちの一座には、若い女優がいない。いや、そもそも女優はいないんだった。しかし、そろそろ、ヒロインに、本物の女性を使ってみたくなったんだ」


「私に、できるかしら」


 王宮でも、定期的に王侯貴族たちが音楽劇を作って、自ら歌い演技する催しも行われてはいる。

 しかし、私は参加したことはない。クラヴサン(楽器)の演奏が、せいぜいだ。


 でも、今しがた観たシシィたちの演技に引き込まれた私には、ルークの提案は魅力的に感じられた。


「ルーク、私、やってみたいわ」


「そうか、ありがとう! 早速、このまま舞台に戻るぞ」


 劇場に戻った私たちは、今度は客席ではなく舞台に向かった。


「お嬢様、なんだか雰囲気が違うわ。全然別人ね!」


「本当だ。しかし、美しさは変わらないぞ。女らしいのにキリッとして、でも色気もある。参ったなあー」


 シシィとトラヴィスが、興奮したように褒めそやすので、私は恥ずかしくなった。


「アナベル、この台本の、ここを読んでみてくれ」


 ルークに台本を渡され、私は目を通す。


『お前たちは黙って、わたくしについてくればよいのです』


「いいぞ、もう一度。今度はもう少し大きな声で!」


 ルークに言われて、私は声を張り上げて同じ台詞を言ってみた。


「素晴らしいわ! ルーク、次のヒロインはアナベルで決まりね」


「そうだな、だが芝居は台詞だけじゃなく、全身で演技をするものだ。しばらくは練習が必要だな。春のデビューに向けて特訓しよう」


 ルークの声が弾んでいる。


「春のデビュー?」


「いま練習している新春用の芝居には間に合わないが、次作のヒロインは任せたい。アナベルのお披露目公演を盛大にやろう!」


「ち、ちょっと待って」

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