危険な男?
私を見るルークの視線に憐れみを感じる。
「大丈夫、全然大丈夫よ。このスープ、美味しいわねえ」
へこんでるなんて、悟られてはならない。
公爵家令嬢たるアナベル・ウィスハートは、こんなことで……。
「あなたたちのご親切、私は終生忘れないことを誓いますわ」
ルークは、白い歯を見せて笑った。
「大袈裟だな」
「いくら私が公爵家令嬢と知っていても、無礼な真似を平気で出来る輩もいるでしょう。でも、あなたはそうしなかった。私の頼みを聞いて、匿ってくれて」
「信用するのはまだ早いぞ」
「え?」
「俺が無礼な真似をしないと言い切れるか?」
ルークは先程までとは違う、邪悪な笑みを浮かべて言った。
「『飛んで火に入る夏の虫』というだろう? 獲物のほうから飛び込んで来てくれるなんて、千載一遇の大チャンスだ。こんな上玉、みすみす手放すわけないだろう?」
「ルーク? 何言ってるの?」
私の言葉など聞こえない様子で、彼は舐めるように私の全身を見て、一歩私のほうに身を乗り出してきた。
「ルーク!」
さっきまでの穏やかな紳士的な雰囲気は消え、彼は今や危険な男に変貌していた。
「ルーク、冗談でしょう?」
私はソファから立ち上がり、じりじりと後ずさる。しかし、すぐに衣装櫃に足が当たり、その場にくずおれてしまった。
「アナベル!」
ルークが跪ずいて、私を助け起こしてくれようとしたが、私は思い切り彼の手を払いのけた。
「アナベル、聞いてくれ」
「いやっ! 放して! その汚らわしい手を。放して!」
私は目を閉じ、両手を闇雲に振り回して、彼を拒絶する姿勢を示した。
不意に、ふんわりと温かいものに包まれた気がして目を開ける。ルークの顔がすぐ近くにあり、彼の手は片方は私の頭に、もう片方は背中にあった。
「すまない、驚かせてしまって!」
ルークの眼差しは優しく、彼の手はそっと私の頭を撫でている。
「ルーク……?」
「この世には、信じられないような悪人が存在する。そのことだけは知っておいてほしいんだ。あなたのようなレディには、想像もつかないことだろうな。さっき、俺がやったような無礼な真似を平気でやる輩なんて、いくらでもいるんだ」
今更だけれど、ゾッとした。よく知りもしない人に助けを求めて、ノコノコとついてきて。
私は無防備で愚かすぎる。
ルークが、彼の言う “信じられないような悪人” だったとしたら、私は今頃どうなっていただろう。
考えたくもないけど、さんざん弄ばれた挙句、売り飛ばされていたかもしれない。なんておぞましい!




