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シシィ

「亡くなられたなんて、嘘だったのかあ……。失礼、お嬢さん。あたしは劇場付きの芸人、ジルベルトと申します」


 坊主頭の小柄な男性は、お皿の載ったお盆を丸テーブルに置いた。


「チキンスープです、どうぞ」


 ジルベルトと名乗った男性に向かって、ルークが揶揄うように言う。


「ジルベルトだと? お前は “シシィ” だろ。アナベル、こいつはシシィ(なよなよした男)と呼んでくれ。うちの看板女優だ」


「女優さん?」


 私は驚いて、シシィの顔を見た。確かに言われてみれば、とても綺麗な顔をしている。くりくりした丸い目、小さく形の良い唇。可愛い女の子で通用する、坊主頭でさえなければ。


「いろいろな(かつら)を被るのに、髪の毛は邪魔なんですよ」


 シシィは、私の心を読んだような返事をした。


「あたしもさぁ、もういい歳だから、そろそろ婆さん役に転向したいんだけど、うちの一座には、あたしみたいなスターが他にいないんですよ」


「アナベル、スープには毒は入ってないから、安心して飲んでくれ」


 ルークがウィンクして、椅子を引いてくれた。


「おや。ホンモノの女性には親切だね、ルーク」


「お前とは、身分も何もかも違うからな」


 私は彼らに見られながら食事するのは嫌だったが、二人は書き物机のほうに移動したので、ヴェールをずらしてスープを一口飲んでみた。


「美味しい」


 心からというか、お腹の底から、ため息のような声が出た。


「ルーク! 今の聞いた?」


 突然、シシィが素っ頓狂な声を上げたので、びっくりした私はスプーンを落とした。


「アナベル、大丈夫か?」


「あ、ごめん。本当にすみませんね、お嬢様。でも、あたし驚いたのよ。なんて色気のある良い声してるの、このお嬢様は!」


「それは俺も思ったさ。見た目だけでなく、声まで美しい。よく通る、艶やかな声だ」


 二人は、私のことを褒めてくれているみたいだ。


「すまない、アナベル。さあ、全部食べてくれ。シシィ、ベッドの用意も頼む」


「合点だ、シーツとネグリジェもご用意するよ」


 シシィはそう言って、笑顔で私のほうを見た。彼の笑顔が瞬時に消えて、大きな目がさらに大きくなった。

 私は慌てて、ヴェールで右頬を隠す。


「……あたしったら。ごめんなさい、本当にデリカシーのないバカ男ね。気にしないで、お嬢様」


 シシィは、そそくさと部屋から出て行った。


「シシィは悪気はないんだ、許してやってくれ」


 ルークに謝られ、そのことで私は余計に落ち込んでしまった。

 悪気なく無邪気に反応した彼女ーーでなくて、彼の表情は自然なもの。つまり、それだけ私の顔の青あざは酷いということだ。

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