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アナベル・ウィスハート

 生まれた時から王家に嫁ぐことは決まっていた。

 幸いなことに、私の婚約者である王太子様は、見目麗しく頭も良くて優しくて。国じゅうの女の子の憧れの的。


 でも、私だって負けてはいない。 “国一番の美女” と賞賛されているくらいだ。

 『公爵家令嬢、アナベル・ウィスハート様は全てを備えて生まれてこられた』とまで言われているのだから。


 ……まあ、そこまで言われるほどじゃないってことも、自分自身が一番よくわかっている。

 王太子様の婚約者という立場だから、みんな気を遣ってくれているのだ。


 ただ、私は、いかにして自分を美しく魅せるか? という技術に長けていて、それはかなり成功しているといっていい。

 だから、“黙っていると怖い顔” などと言われた時は心外だった。


 “黙っていると怖い顔”

 そんな失礼なことを私に言ったのは、見ず知らずの男性だった。

 その時のことは忘れられない。はっきりと覚えている。


 でも、今にして思えば、彼の発言なぞ取るに足らないものだった。

 その後、とんでもない出来事が起きて、私の運命が激変する序章に過ぎなかったのだ。


 あれは、王宮へ新年の挨拶に伺った日のことだった----



 朝から大勢の訪問客が王宮を訪れていた。

 高台にある王宮は、国の東西南北どこからでも見えるほど立派な宮殿。“ホワイティ・エリーズ” という愛称で呼ばれている。


 いずれ王太子妃、王妃となる私が、ホワイティ・エリーズの女主人になると思うと、幸福感で全身が満たされるような思い。


 王宮の背後に聳え立つホワイティ・ローズ山は、代々の王族貴族の墓と神殿がある神聖な場所だ。

 新年には、私たち貴族は山へ登り、神官の祈祷を受けて一年の無事を祈る。その後、国王陛下にご挨拶をするのが毎年の慣わし。


 あの日も、私は両親と一緒に祈祷を受け、山から王宮へ続く石段を降りていた。

 すると、石段を登って来る男性たちの姿が見えた。


 すらりとした長身の男性を先頭に、大男といっていい坊主頭の男性。並んで歩くのは、やはり丸坊主の小柄な男性。さらにその背後には、白い髭も印象的な老人。


 その四人は少し脇に退がり、立ち止まって頭を下げた。

 石段は広いので、道を譲らなくてもいいのだが、おそらく私たちの身なりを見て、上級貴族と判断したのだろう。


 私たちも、軽く会釈して石段を下りたのだが、すれ違いざまに「美しいご令嬢だ」と、誰かが呟いたのが聞こえてきた。


「美しい。だが、黙っていると、やや怖いお顔立ちだ」

 続けて言う声に私は立ち止まる。


(公爵家令嬢に対して、なんて無礼な!)

 私は一行を睨みつけた。

 その瞬間、雷に打たれようになった。


 先頭に立つ男性が、とても美しい男性だったのだ。堂々とした体躯も目を引いた。洋服の仕立てもいい。

 しばし、私は呆然と彼を見つめてしまう。


 彼は私の視線をものともせず、「おっと失礼。氷のように冷たく浄らきよらで美しい方でいらっしゃる」と、しゃあしゃあと言ってのけた。

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