第六話 「生前」に二人とも行ったことがある場所
事故後、「本部」にて、二人きりの生活が始まってから、恵萌と龍輝は、だんだん打ち解けていった。
それにつれて、互いの生い立ちなどを、徐々に話すようになった。
その過程で、出身中学の話題になった時、何と、同じであることが判明したのであった。
恵萌は令和6年度卒、龍輝は平成7年度卒である。ほぼ、三十年の開きがある。
そのあと、龍輝が、「中二の体育祭の借り物競走が、とても嫌な思い出になっている」という話をした。
その内容を詳しく聞いた恵萌が、「確かに、つらいわ。じゃあ、私が変えてきてあげる」という流れになったわけである。
タイムワープには、行き先に指定できる地域として、厳格なルールがある。
それは、自分が「生前」に行ったことのある場所にしか行けないというものだ。
ただし、タイムワープ後、新たに行った場所については、次回からは可能エリアとして追加されるけれど。
すなわち、立遠第二中学校には、恵萌も、タイムワープ初回から行くことが出来るわけだ。
まさに、同じ中学出身だからこそ、実現できた「企画、遊び」である。
ガガッ、カッカッ、ガッ、カッ。
スピーカーに、雑音が入る。
「!」
日光が照りつける校庭に、放送が流れたのだ。女子の声。
「あっあー、あっ、マイクテスト、マイクテスト。……えー、それでは、ただいまより、体育祭の午後の部を開始いたします。プログラムナンバー十二番。一、二年生女子・合同による、紅白対抗タイヤ引きです!」
拍手が響いた。
(おお、始まった、始まった。急がなきゃ)
我に返った恵萌は、手を持ち上げ、一緒に拍手をしてから、グラウンドの方へ歩いていく。
周囲は、でこぼこだ。アスファルトと石ころの地面。駐輪場と広場が、混ざったようなスペース。
そばを、半そで体操服姿の女生徒が三人、通り過ぎる。
「あっ!」
思わず、声が出た。
女子たちは、けげんそうに少し振り向いたが、そのまま、防球ネット沿いに去ってゆく。
三人とも、中学生らしく発育した、大きめのお尻が、紺色の布にくっきり浮き出ていた。その下は、太ももから素肌が丸出しである。
ひざ裏と、ふくらはぎ。砂が付着している。何か、激しい種目を終えたのだろうか。
うち一人が、片手を後ろへ回し、お尻の裾のゴムに指を突っ込んで、クイッと下へ引っ張る仕草。
食い込みを直したのか。あるいは、下着のはみ出し――龍輝の話では「はみパン」と言うそうだが――を気にしての行為か。
いずれにしても、
(――なるほど、あれが、ブルマーか!)
今、恵萌が叫んだ理由も、それであった。
学校指定の体操服としての、ブルマー。実際にこの目で見たのは、初めてだ。イラストとか、遠目の写真とかで見たことはあったけれど。
一人で納得し、軽く首肯する恵萌。
(……確かに、あれは恥ずかしいかも。お尻の形、出過ぎ! 授業のたびに毎回履くんだよね? というか、生理の時とか、どうすんの、あれ。ナプキンの形、モロ分かりだと思うんだけど)
前へ向き直ると、短い下り坂。
「とと」
少し、よろめいた。膝がカクンとなり、スカートが、ふわり、ひらりと左右へ波打つ。腕を広げて、バランスを取った。
アスファルトのエリアから、校庭へ下り立つ。低い位置だ。ローファーで踏む。風が、乾いた土を舞い上げ、吹き散らす。
別の一角からは、白い粉も舞っている。
「ぷっ!」
唇に付いた砂ぼこりを、息を吹いて飛ばす。ラインパウダーの匂い。この時代は、まだ、消石灰かもしれない。
「――」
頭上では、イギリスの国旗と、日の丸がはためいている。緑に、青い星空の円は、ブラジル。赤い国旗は、たぶんソビエトだろう。オリンピックの旗も見える。ほかにもたくさん、横一列。万国旗だ。
かくして、いよいよ、「祭り」の中心にたどり着いた。
外周には、白い天幕のテントが、幾つか並ぶ。パイプテントと呼ばれる、主に学校用・企業用の物だ。横に長い。
屋根状の天幕には、大きな黒い字で「立遠第二中学校 PTA」などと書かれている。
アナウンス。先ほどの女子生徒だ。
「さあ、いよいよ対決です! ムカつく男子や先生への、日ごろのうっぷんを、タイヤにぶつけちゃいましょお! ホントは、あたしも加わりたいッ! では、プログラムナンバー十二番、タイヤ引き、スタート!」
グラウンドに爆笑が起こった。
(スゲー。大丈夫かー? そんな過激なこと言っちゃって)
毒舌アナウンスにあきれて、カカカッと恵萌も笑う。
続いて、ピーッと笛の合図。




