第二話 有効か無効か? 青少年健全育成
――スカートの中から見えているのは、下着ではなく、その上に着用する厚手のインナー、紺色のオーバーパンツである。恵萌が今言ったとおり、これも一種のブルマーだ。
女子高生・恵萌にしてみれば、いい年をした中年男性が、この程度でドギマギしている様は、情けなく思えるのかもしれない。
とはいえ、無防備にスカートをめくり上げる仕草は、決して、お行儀のよいものではない。
また、男性というのは、女性のスカートがめくれそう・めくれているという、その光景自体に、そわそわと気まずくなる性質があるのだ。これはなかなか、女性には分かってもらえないのだけど……。
龍輝は、短髪の頭をボリボリかいて、
「あのさあ、恵萌。もっと、恥じらいとかさ……」
龍輝は、背広姿だ。低い声は、笑ってはいるが、かすれていた。内心、かなり動揺している証拠である。
それに気づいたのか、
「えーっ、そんなにイヤ?」
大きな両眼のうち、左目を細める。長いまつ毛。
手を放したら、スカートの裾が、バサッと下へ戻る。長さは、膝小僧の上あたり。ブルマーは、すっぽり隠れた。
「パンツじゃないのに」
「パンツとか言うな」
即、龍輝のツッコミ。
恵萌は、プッと噴き出してから、
「ここにいる時は、性欲とか起こらないって、言ってなかったっけ?」
「そりゃあ、言ったさ。実際、そうだしな」
龍輝はうなずく。
恵萌みたいな美少女と、中年男の自分が、毎日、二人きり。普通なら、おかしくなるところだろう。
しかし、「ここ」は、普通の場所ではない。正体はまだ不明だが、超常的な世界であることは確かだ。
もう、ここに来てから、だいぶ経つ。感覚としては、既に数か月以上にも及ぶ。
お互い、髪の毛もヒゲも伸びない。食事も排泄も、一切ないのだ。たぶん、「あの世」に近いのだろうと思う。
恵萌は、口をとがらせて、
「だったら、別に、スカートめくってブルマー見せるぐらい、どうってことないでしょ?」
「確かに、興奮はしないけどさ。けど、そういう問題じゃ、なくないか?」
「なんで?」
本当に不思議がっているらしく、恵萌はキョトンとしている。
ゴホッと咳をして、
「一応、俺は大人だからな。青少年健全育成という観点では、あなたに対して、一定の責任は負ってるわけでさ」
それを聞いた恵萌は、体の前で腕組みをする。セーラー服特有の、モコモコした長そでが、締めつけられて、さらにふくらんだ。
「育成も何も、もう死んでるじゃん、うちら」
「うーん。まあ、まだ、死んだと決まったわけではないけどなア……」
否定はしてみるも、龍輝も歯切れが悪い。
残念ながら、恵萌の言う通りである可能性が高いからだ。何しろ、ここに来る直前の、二人の「最後の記憶」が、すさまじい。
二人して、ほぼ同時に、大型の車にはねられたのだ。龍輝の記憶が正しければ、2026年の4月16日だったと思う。恵萌は、2026年の「四月の真ん中」としか、覚えていないというが。
で、次に気がついた時には、この部屋にいたというわけなのであった。
体は無傷。服装は、車にひかれた時のままであった。
まさに、龍輝は朝の出勤、恵萌は登校の途中だったのだ。




