表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

第十四話 身長変わらず、展開変わり、位置について用意

 恵萌(めぐも)を見た途端、龍輝(りゅうき)の表情がぱっと明るくなる。

 しゃがみかけて、曲げていた(ひざ)が、途中で止まる。

 膝を伸ばして、スックと立つ。文字どおり、まさに、「立ち直った」のだ。

(おっと……)

 やはり、龍輝は身長が高めだ。急に見下ろされ、恵萌は少し、身構える。

(大人になった現代と、同じ高さだな。中学二年生といえば、男の子も、成長期は終わってるのかな)

 体型も、現代より少々やせている程度。余り変わっていない。


 体操服シャツの前部に、「滝倉」という名札が()い付けられていた。龍輝の名字である。

 恵萌はホッとした。最後の答え合わせも出来た。


 もはや、名札など「ダメ押し」同然で、見るまでもなかったが。

 体臭……とはちょっと違うけれど、目の前に立った時の印象、気配が、いつもと同じであったから。

(ハハッ、大して違和感ないや。龍輝だなあ)

 手の上げ下げ、眼球の動かし方など、たった数秒でも、龍輝らしい特徴は見つかる。たとえ少年でも、中身は同一人物なのであった。


 あどけない龍輝の顔は、戸惑いとうれしさの中間だった。

 戸惑いの理由は、見知らぬ女の子が急に寄ってきたから。


 そして、うれしさの理由――こちらは、説明不要だろう。

 もちろん、()(もの)競走の「お題」カードに一致する人物が、来てくれたから。


 恵萌は、その場でしゃがむ。

 未来の龍輝から忠告されたとおり、「恥じらい」を忘れず、両ひざを斜めの角度で曲げて、スカートの中が見えないようにした。

 裏返しに落ちているカードを、恵萌が拾う。中身は知っているけれど、念のため確認したら、未来の龍輝が話してくれたとおり、「他校の女子生徒」と書いてあった。


 恵萌は、大きなカードを両手で持って、龍輝に見せつつ、

「ほら、『他校の女子生徒』だよ」

「うん」

 反射的という感じではあったが、こくんと龍輝がうなずく。

 龍輝の鼻から一筋、鼻水が垂れて、(あわ)てたように、シャツの半そでで()いている。


 この学校、立遠(りっとお)第二中学校の制服とは違う、別のセーラー服を着た女の子。

 カードの条件を満たすことは、一目(いちもく)瞭然(りょうぜん)であった。


 恵萌は、後ろも振り向いて、一応、コースわきの観客たちにも、カードを見せた。

「おおー!」

「いたよ!」

「お題、それだったのかよ」

「ひどいお題だなあオイ!」

「よかったよかった」

 安堵(あんど)の歓声とため息、それから、拍手が起きた。


「――ってことで、じゃあ、行くよ!」

 恵萌は、左腕を伸ばして、龍輝の右手をグイッとつかんで引っ張る。

「わわっ!」

 龍輝の体が、恵萌から見て左へ傾く。

 けれど、即、体勢を立て直して、一緒に駆け出してくれた。

 いろいろ疑問などがあっても、今やるべきことは、ゴールまで走る、それだけだ。この認識は、とりあえず共有できたようだ。


 恵萌は、グラウンドを走りつつ、握った龍輝の手に、ギュッと力を込める。

 すると、

「えっ」

 左耳に、龍輝の驚く声が聞こえ、つないだ手もビクンと震えた。

「?」

 振り返る余裕はなかったが、どうやら、女の子と手をつないで、戸惑っているらしい。

 とはいえ、二人の息はぴったりだ。

 恵萌は既に、未来の龍輝と、何度もタイムワープをしている。過去の「旅先」では、軽いピンチも経験しており、手をつないで走って逃げたこともある。だから、龍輝の走り方や、速度は、体感として覚えているのだ。幸い、中学時代でも、そのリズムは同じであった。


 トラック右側の声援が風に溶けて、後方へ抜けてゆく。

 あいた右腕に、お題のカードを抱えたまま、伸ばした左腕で龍輝少年を引っ張り、恵萌はまっすぐ走ってゆく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ