第十四話 身長変わらず、展開変わり、位置について用意
恵萌を見た途端、龍輝の表情がぱっと明るくなる。
しゃがみかけて、曲げていた膝が、途中で止まる。
膝を伸ばして、スックと立つ。文字どおり、まさに、「立ち直った」のだ。
(おっと……)
やはり、龍輝は身長が高めだ。急に見下ろされ、恵萌は少し、身構える。
(大人になった現代と、同じ高さだな。中学二年生といえば、男の子も、成長期は終わってるのかな)
体型も、現代より少々やせている程度。余り変わっていない。
体操服シャツの前部に、「滝倉」という名札が縫い付けられていた。龍輝の名字である。
恵萌はホッとした。最後の答え合わせも出来た。
もはや、名札など「ダメ押し」同然で、見るまでもなかったが。
体臭……とはちょっと違うけれど、目の前に立った時の印象、気配が、いつもと同じであったから。
(ハハッ、大して違和感ないや。龍輝だなあ)
手の上げ下げ、眼球の動かし方など、たった数秒でも、龍輝らしい特徴は見つかる。たとえ少年でも、中身は同一人物なのであった。
あどけない龍輝の顔は、戸惑いとうれしさの中間だった。
戸惑いの理由は、見知らぬ女の子が急に寄ってきたから。
そして、うれしさの理由――こちらは、説明不要だろう。
もちろん、借り物競走の「お題」カードに一致する人物が、来てくれたから。
恵萌は、その場でしゃがむ。
未来の龍輝から忠告されたとおり、「恥じらい」を忘れず、両ひざを斜めの角度で曲げて、スカートの中が見えないようにした。
裏返しに落ちているカードを、恵萌が拾う。中身は知っているけれど、念のため確認したら、未来の龍輝が話してくれたとおり、「他校の女子生徒」と書いてあった。
恵萌は、大きなカードを両手で持って、龍輝に見せつつ、
「ほら、『他校の女子生徒』だよ」
「うん」
反射的という感じではあったが、こくんと龍輝がうなずく。
龍輝の鼻から一筋、鼻水が垂れて、慌てたように、シャツの半そでで拭いている。
この学校、立遠第二中学校の制服とは違う、別のセーラー服を着た女の子。
カードの条件を満たすことは、一目瞭然であった。
恵萌は、後ろも振り向いて、一応、コースわきの観客たちにも、カードを見せた。
「おおー!」
「いたよ!」
「お題、それだったのかよ」
「ひどいお題だなあオイ!」
「よかったよかった」
安堵の歓声とため息、それから、拍手が起きた。
「――ってことで、じゃあ、行くよ!」
恵萌は、左腕を伸ばして、龍輝の右手をグイッとつかんで引っ張る。
「わわっ!」
龍輝の体が、恵萌から見て左へ傾く。
けれど、即、体勢を立て直して、一緒に駆け出してくれた。
いろいろ疑問などがあっても、今やるべきことは、ゴールまで走る、それだけだ。この認識は、とりあえず共有できたようだ。
恵萌は、グラウンドを走りつつ、握った龍輝の手に、ギュッと力を込める。
すると、
「えっ」
左耳に、龍輝の驚く声が聞こえ、つないだ手もビクンと震えた。
「?」
振り返る余裕はなかったが、どうやら、女の子と手をつないで、戸惑っているらしい。
とはいえ、二人の息はぴったりだ。
恵萌は既に、未来の龍輝と、何度もタイムワープをしている。過去の「旅先」では、軽いピンチも経験しており、手をつないで走って逃げたこともある。だから、龍輝の走り方や、速度は、体感として覚えているのだ。幸い、中学時代でも、そのリズムは同じであった。
トラック右側の声援が風に溶けて、後方へ抜けてゆく。
あいた右腕に、お題のカードを抱えたまま、伸ばした左腕で龍輝少年を引っ張り、恵萌はまっすぐ走ってゆく。




