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第一話 ブルマーを知らない世代

 四十六歳で「死亡する」まで、ずっと、モテない人生だった。なのに、「死後に」、なぜか少女と二人きり。しかも、全くの他人。

 困惑するけれど、しかし、相手はもっとだろう。当然だ。高校生の女の子が、いきなり、さえない中年男と二人暮らしをすることになるなんて……。

 せめて、「人のいい無害なおっさん」でありたいと思うし、幸い、それは今のところ、うまくいっているようだ――。


 その少女・降幡(ふりはた)恵萌(めぐも)が、立ったままでスマホを操作しつつ、話しかけてきた。

「じゃあ、私、そろそろ出発しようかな。行き先は、1994年9月18日、と」

 高い声。響きは、ふんわり(やわ)らかいが、語尾はやや鋭い。りんとしている。十代少女の若々しさだ。


 向き合って立つ中年男・滝倉(たきくら)龍輝(りゅうき)が、

「たぶん、その日付けで合ってると思うんだけど、間違ってたら、ごめんよ」

「だって、三十年も前でしょ?」

「ああ、もっとだな」

 恵萌(めぐも)のまゆ毛が、ハの字に下がり、

「そんな昔の体育祭の日付けなんて、普通、忘れてるって」

 龍輝(りゅうき)も小さく笑って、

「まあな。俺は、未練があるからな。――せめて、94年9月18日が日曜日だと分かればいいんだけどな」

「確かに、体育祭って日曜日が多いもんね」

「ああ」

 この場所にいる二人に、それを調べる手段はない。スマホの、検索やカレンダー機能は、全て使えなくなっている。外部の情報からは、遮断されているのだ。


 目の前の恵萌が首を振ると、ポニーテールも左右に揺れた。

 身長は、龍輝より小柄。なだらかな肩。スカート姿である。靴はローファー。

「まあ、そんなのいいよ、いいよ。気にしないで。もし違ってたら、タイムワープをやり直せばいいだけだし。何回でも行けるんだからさ。同じ日には、行けないけど」

「そりゃそうなんだが、ほら、一回ワープすると、次のワープが出来るまでに、数日間、かかるからなア」

 と龍輝。

 どうやら、エネルギーをチャージしているようなのだ。その間は、この部屋で待つしかない。

 恵萌のスマホに入っているアプリが、タイムマシンとして機能する。時代と場所を、セッティングするだけでよい。行かれる範囲は、かなり限られてはいるけれど――。

 無論、誰がどうやって作ったのかは一切不明な、得体の知れぬアプリ。何回も使いながら、試行錯誤で、手順を覚えていっている最中なのだ。


 恵萌は、自分の前髪を指先でつまんで、

「そうだけどさ。いいじゃん。うちら、時間は無限にあるんだし」

「まあ……な」

 龍輝はうなずくが、恐らく、今、苦笑いになっていることだろう。


 二人は、現在、異次元の空間で生活している。

 ここは、六畳ほどの部屋。中央に、横並びの座席が二つ。

 窓、ドアはない。ゼリーのようにぼやけた、青い壁に囲まれている。

 雰囲気としては、自動車の中に、やや似ている。

 いや、天井は高いので、例えるなら、自動車というより、電車の片隅に近いかもしれない。


 この「謎の場所」へと迷い込んでから、だいぶ、長い時間が過ぎた。

 ある程度までは、法則性も判明しつつある。

 脱出は出来そうもないこと、年を取らないこと、過去へタイムワープして遊べること、など。


 恵萌が、話を続ける。

「で、行く場所は、立遠(りっとお)第二中学校、と。――龍輝の頃には、まだ、女子の体操服はブルマーだったんだよね?」

 今回の目的は、現地の体育祭を見ることなので、自然と、体操服の話題になる。

 龍輝は、

「ああ、そうだな。俺の期が卒業して数年後に、徐々に廃止になったらしいけどな。たしか、西暦2000年には、ブルマーは全国でほとんど消えたとか」

「どうりで、私、知らないわけだ。私、生まれたの2009年だもん」

「若いねえ」

「現役JKですから」

「まさにね」

 龍輝は、しげしげと恵萌を見やる。今、恵萌はセーラー服姿なのだ。

「体操服のブルマー、生で見れるの、ちょっと楽しみかも」

 恵萌がほほえんだら、龍輝は、

「まあ、あの当時、ブルマーはすごく不評で、女子はみんな、嫌がってたけどな」

「恥ずかしいから?」

「そうだね」

 龍輝がうなずいた。付け足して、

「恵萌だって、あんなの()きたくないだろ?」

「どうだろ?」

 小首をかしげながら、セーラー服姿の恵萌は、不意に、自分の履いたスカートを、ひょいとつまみ上げる。

「これでしょ、ブルマーって。一応、私も今、中に履いてるよ」

 長い脚、白っぽい肌。太ももの、つけ根まで丸出しになる。それどころか、その上までもが、(あら)わに――。

「こら!」

 龍輝が、あわてて、目をそむける。

「何を今さら」

 恵萌は、茶化すというよりは、あきれ顔である。

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