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異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―  作者: 橘靖竜
第四章 境界地図 ーオブザベーションマップー

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第四十九話 発光点


【異世界・ゼルドア要塞城/地下解析室】


 水晶板クリスタルコンソールに、ありえない表示が走った。


 ──光点、光点、光点。 薄赤い点が、ひとつふたつじゃない。

 地図の上で“増殖”していく。


 ノノ=シュタインは椅子から半身を浮かせ、指を滑らせた。

 拡大。重ね合わせ。照合。

 異世界側の座標図と、現実世界の地形図が、まるで破れた布みたいにズレて重なる。


 「……そんな。これ、同時発生……?」


 点は、世界の各地に散っている。

 でも、ただのランダムじゃない。微妙に“筋”がある。

 一本の線じゃない。網目だ。


 ノノは喉を鳴らし、別のログを呼び出した。

 “同期”の痕跡。

 “鍵の接触”の痕跡。

 そして──さっきまで、ひとつの地点に寄っていたはずの揺らぎが、今は外へ外へと滲み出している。


 「……引き金、引いちゃった……」


 誰に言うでもなく呟いた瞬間、右耳のイヤーカフが淡く光った。


 外の小艇から繋いだままの回線。アデルとリオ。


 『ノノ、どうした』

 アデルの声は低く、風の音が混じっている。


 ノノは一息で言った。

 「二人とも、落ち着いて聞いて。いま“薄点”が……世界中で増えてる。

  さっき回収されたものが、きっかけになった可能性が高い。

 たぶん、向こうの狙いはそこまで含んでる」


 『……増えてるって、どの規模だ』


 「“地図が埋まる”方向。点が点で終わらない。繋がり始めてる」


 リオの声が割り込む。

 『繋がる? ……道になるのか』


 「まだ“道”と断言はできない。でも、現象はそれに近い。

  それと──回収された五つ、うち一つだけ反応が強いはず。偏りがある」


 『ユナのだな』

 リオの言葉が短くなる。


 ノノは頷き、画面の波形を指で叩いた。

 「指向性がある。……“向き”が出てる。

  つまり、次の場所を知ってるか、次の場所に引かれてるか。どっちか」


 アデルが息を吐いた。

 『……了解だ。戻り次第、報告をまとめろ。警備局を動かす』


 「うん。あと、二人とも今は絶対に無茶しないで。帰り道で“追い風”が来てる」


 『追い風?』

 「潮流じゃない。境界の流れ。……近づいてる。急いで」


 通信が一瞬だけノイズを噛み、イヤーカフの光が弱まった。


 ノノは画面へ視線を戻す。

 地図の上で、点がまた一つ、増えた。


 増え方が──速い。


 「……これ、時間勝負だ」


 彼女は震える手で、演算条件を変えた。

 “中心”を探すためじゃない。

 “次に壊れる場所”を探すための計算へ。


 ◆ ◆ ◆


【現実世界・ハレル宅/リビング】


 朝のニュースが、やけに騒がしかった。


 〈沿岸部で原因不明の停電が相次ぎ──〉

 〈一部地域で通信障害。地磁気の影響の可能性も──〉


 テレビの言葉は、全部“いつもの理由”を探している。

 でも、ハレルの目には別のものが見えていた。


 スマホの画面の端。

 昨日から、時々だけ現れる小さなエラー表示。

 地図アプリが一瞬だけ別の地形を描いて、すぐ戻る。


 木崎が、キッチンから缶コーヒーを持ってくる。

 「警備会社の知り合いに当たった。赤錆埠頭の周辺、今朝から急に巡回が増えてる。

  ……“何かが起きる前提”の動きだ」


 サキはソファの端で膝を抱え、ケースを見ていた。

 昨夜は眠れなかったのか、目の下が少しだけ赤い。


 「……これ、動いてないよね」

 サキが小声で言う。


 ハレルはケースの留め具に触れず、距離を取ったまま答えた。

 「動いてない。……でも、“向いてる”」


 五つのカプセルのうち、一つ。

 視線を合わせると、ほんのわずかに光が寄って見える。

 気のせいだと切り捨てるには、ネックレスの熱がはっきりしすぎていた。


 木崎が低く言う。

 「隠す場所、変えるか」


 「うん」

 ハレルは即答した。

 「ここに置いておくのは危ない」


 サキが顔を上げる。

 「私、今度は“ちゃんと役に立つ”」


 言い方が真面目すぎて、ハレルは一瞬だけ笑いそうになって、やめた。


 「役に立ってる」

 ハレルは言って、サキの頭に手を置く。

 「だからこそ、勝手に動くのは無し。約束」


 サキは、強くうなずいた。

 「うん」


 その瞬間、窓の外で、工場のサイレンが鳴った。

 いつもの点検音のはずなのに、距離が変だ。近すぎる。


 木崎が目を細める。

 「……音の届き方が、変だな」


 ハレルのネックレスが、また熱を増した。

 “赤錆”の時みたいに急かす熱じゃない。

 もっと広い、薄い波の中で──針がゆっくり振れている感じ。


 ハレルは立ち上がった。

 「移動する。今すぐ」


 ◆ ◆ ◆


【異世界・ゼルドア要塞城/地下解析室】


 ノノは演算結果を見て、息が止まった。


 地図の上に、点が増えているだけじゃない。

 点と点の間に、薄い“線”が生まれ始めている。


 それは道というより、傷の走り方だった。

 世界の表面に、亀裂が入る前のヒビ。


 ノノは震える指で、画面を固定した。

 そして、ある一点にだけ、赤い枠を付ける。


 「……次、ここ……」


 誰に聞かせるでもない言葉が、喉から落ちた。

 同時に、イヤーカフが弱く光り、外の風音が混じる。


 『ノノ?』

 アデルの声。


 ノノは短く、はっきり言った。

 「“増え方”が変わった。点が線になり始めてる。

  このままだと……世界が、繋がり方を間違える」


 沈黙のあと、アデルが答えた。

 『……わかった。必ず戻る。続けろ』


 ノノは頷き、もう一度画面へ指を走らせた。

 光点が、また増えた。


 まるで、地図が呼吸しているみたいに。


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