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異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―  作者: 橘靖竜
第四章 境界地図 ーオブザベーションマップー

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第三十七話 特異点座標


 解析室に、冷たい魔力の風が流れ込んだように感じた。


 水晶板クリスタルコンソールは、薄赤い光を放ち続けている。

 その中央に浮かび上がるのは──“揺らぎの座標の一点”。


 ノノ=シュタインは震える指で画面を操作した。


 「……これ、偶然じゃない。

   境界薄点が“ぞくぞく”現れてるの。

   転移ログと照らし合わせると……

   全部が、この一点に向かって“吸い寄せられてる”感じ」


 アデルが低くつぶやく。


 「……“中心”があるということだな」


 ノノはこくりと頷き、

 机に散らばった多量のメモをかき集めた。


 「これ……レアのスマホに残ってた“境界地図”。

   本来、あんな素人同然の子に扱えるはずのない

   高精度の観測プログラムなんだけど……

   カシウスが改造してたみたい」


 リオが覗き込む。


 「カシウスは、この座標の存在を……?」


 ノノは唇を噛みしめた。


 「気づいてる。

   ……むしろ“向かっている”と見るべき」


 その瞬間。

 水晶板の光が、一瞬だけ 青白く明滅した。


 「わっ……!」


 ノノが慌てて下がる。

 画面に、現実世界の地図と異世界の地図が重なった。


 そして──同時に一点だけが光り続けた。


 「ここ……!」


 ノノは指を突きつける。


 「異世界座標《93・−12・47》。

   そして現実世界では……

   “海沿いのとある廃ビル”。

   この二つが完全に“重なってる”!」


 アデルが息を呑む。


 「廃ビル……?」


 「境界が完全に薄くなってる。

   異世界の“観測層”と

   現実世界の“物理層”が

   同一座標として認識されてるの」


 リオが拳を握る。


 「つまり……そこが、

   行方不明の5人──

   ユナが“閉じ込められている場所”か」


 ノノは静かに、しかし確信を込めて言った。


 「うん。

   意識信号、明確なものが一つ……

   そして弱い信号が四つ。

   全部、同じ場所」


 ◆ ◆ ◆


【現実世界・ハレル】


 バス停のベンチに座っていたハレルのスマホが、突然震えた。


 “ピッ……ピッ……ガッ……ジジ……”


 画面が一瞬だけ歪み、

 次の瞬間──セラの声が微かに届いた。


 《……ハレ……ル……聞こえ……る……?》


 ハレルは立ち上がり、胸が早鐘を打つ。


 「セラ!? 大丈夫なのか!?」


 《……境界……ゆらぎ……強……

   リ……オ……危険……向か……う……》



 木崎が駆け寄ってくる。


 「また異界通信か!? 何かわかったのか?」


 ハレルは首を振る。


 「……場所までは聞こえない。

   でも、リオが“どこかへ向かっている”……

   それだけは……はっきり聞こえた」


 《……急……げ……

    繋が……ら……なく……な……る……》


 通信がノイズに飲まれた。


 サキが袖をつかむ。


 「お兄ちゃん……今の声……

   セラちゃん、だよね……?

   “危ない場所がある”って言ってた……?」


 ハレルは胸元のネックレスを握りしめる。


 (セラが必死だった……

   リオが向かってる“どこかの地点”が……

    本当に危険なんだ……)


 場所はわからない。

 ただ──世界のどこかで、異変が動き始めている。


 再びスマホが光ったが、 次の瞬間には完全に沈黙した。


 「……セラ……!」


 焦燥だけが胸に残った。


 ◆ ◆ ◆


【異世界・解析室】


 ノノが大きく息を吐いた。


 「……これで、座標は確定した。

   アデル、リオ。

    行くなら早い方がいい。

     “境界”はもう……持たない」


 アデルは剣の柄を握りしめる。


 「ノノ。現実世界の座標も伝えられるか?」


 「アデルから聞いてる……“現実の転移者”って……

 確か名前は……ハレル、だったよね?

 その子にも、この座標……届けないといけない」


 リオが一歩前に出る。


 「直接は無理だ。

 ノノは現実世界に通信できないからな。

 ……でもセラなら、間に入れる」


 ノノ

「だ、だからもうデータ準備してる!

 セラにぶん投げれば、リオのスマホ経由で

 現実世界にも“断片的なら届く”はず!


 アデルは目を細め、 だが強くうなずいた。


 「……断片的でも十分だ。

 警備局として動く準備もしておく」


 「行こう。

   “特異点”に──。」


 リオ 「……ユナもそこにいるんだろ。

 行くしかない。」


 ノノが水晶板を操作する。


 「二つの世界が、同じ地点で“折れ重なってる”。

   誰かが、そこを狙ってる。

    カシウスか……

     それとも……別の誰かか」


 深灰の風が窓を鳴らした。


 ――境界は、もう限界だ。


 ◆ ◆ ◆


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