表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―  作者: 橘靖竜
第三章 双界の連続殺人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/37

第三十一話 揺らぎの声

 揺らぎの境界


 ゼルドア要塞城・医療区画



 夜の冷気が、開け放たれた窓から細く流れ込んでいた。


 白布の上で、リオはゆっくり息を吐く。脇腹を押さえ、痛みを確かめるように上体を起こした。


 「……まだ痛むな」


 アデルが横で腕を組む。月光を受けた 銀髪の太い三つ編み が、静かに揺れた。


 「当たり前だ。致命傷になっていてもおかしくなかった。

  まったく……危なかったな。」


 「まあ、アデルが来なかったら、本当にやられていた。

  助かったよ」


 アデルはほんの一瞬、咳払いで照れを隠した。

 

 「……素直に礼を言われると調子が狂うな」


 リオは微笑むと、ふと尋ねた。


 「奴は、レアは?」


 アデルは顎を少し上げ、医療区画の奥の階段を示す。


 「ハレルに以前逃げられた時の“責任”で、私が地下に作らせた

 “転移封じの牢”に移送した。転移者用の特別牢だ。

 暴れ続けていたが、術式で完全に封じた。

 ……また逃げられることはない」


 「なら良かった」


 そう言った瞬間――。


 ――チ……チチチ……


 リオの腕輪が、青白く脈打ち始めた。


 アデル「境界通信……!? 今は不安定なはずだぞ」


 「……来い、セラ……!」


 光が強まり、声が溶けるように響く。


 《……リオ……! 聞こえますか……!》


 「セラ!」


 次いで――ハレルの声が混じった。


 《リオ! 聞こえるか!? “レアは捕まえたって思っていいのか!?”》


 リオは思わず笑った。

 「捕らえた。俺は無事だ。心配するな、ハレル」


 医療区画の空気が、少しだけ温かくなる。

 その声は、そのまま現実世界にも届いた。


 ◆ ◆ ◆


 《ハレル側・船 オルフェウス号》


 部屋にいたハレル、木崎、サキが、同時に顔を上げた。


 「……リオ……!? 本当に無事なのか!」


 《ああ。お前のおかげで気づけた。助かった》


 サキが胸に手を当て、涙交じりに言った。

 「よかった……本当によかった……!」


 木崎も息を吐き、眉を緩める。

 「捕まったってなら、ひとまずは安心だな……」


 だが、その和らいだ空気の外。廊下からは、いまだ落ち着かないざわめきが続いていた。


 「……ハレル、船の乗客はまだ騒ぎっぱなしだ。

 “密室の変死体”なんて、隠しようがないからな」


 ハレルはうなずく。


 「早く全部終わらせないと……」


 ◆ ◆ ◆


 《異世界側》


 アデルがわずかに肩を下ろす。


 「互いに無事を確認できたのは大きいな。

  境界の揺らぎの中では奇跡に近い」


 「……ああ。だが、まだ安心するのは早い」


 その時だった。


 ――ビッ……!


 腕輪の光が一瞬、強く弾け――


 《……リ……境界……に……また……》《……気をつ……レ……ア……》


 ノイズが闇を裂いた直後、光は――ぷつりと消えた。


 通信断。


 アデルが鋭く言う。


 「……境界が、再び乱れた」


 リオは拳を握りしめた。


 「ハレル……!」


 銀の三つ編みが揺れ、アデルが短く命じる。


 「リオ。今の言葉……断片でも覚えておけ。 何かが始まっている」


 窓の外、黒い海のような夜空がまるで呼吸するようにかすかに脈打っていた。


 ――現実と異世界。その境界は、もう“限界”に近づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ