表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―  作者: 橘靖竜
第三章 双界の連続殺人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/37

第二十六話 第四の殺人

 ◆ ◆ ◆


ゼルドア要塞城・西棟・訓練兵区画

 

 扉が開かれた直後――

 重い沈黙が、廊下全体に落ちていた。


 焦げ臭い空気。

 焼け焦げた扉の縁から、白い煙がまだ細く立ちのぼる。


 アデルがまず一歩踏み込み、短く息を呑んだ。

 その後ろでリオも、拳を固く握りしめる。


 ハレルも続いて部屋に入り――

 視界に飛び込んできた光景に、言葉を失った。


 「……っ」


 石造りの床の上に、ひとりの青年がうつ伏せに倒れていた。


 制服は胸元を中心に黒く焦げ、

 焼け跡の中心には円形の深い刺し穴。


 アデルが静かに名を確認する。


 「メオ=キルガ……第二防衛隊の訓練兵だ」


 部屋の壁には浅い焦げ跡が散り、

 おそらく“暴発した熱刃”の余波と思われる歪みが残っていた。


 リオが低い声を洩らした。


 「……レオンの時と同じだ」


 ハレルはしゃがみ込み、胸元の穴と黒く焼けた衣服を慎重に観察した。

 (迷いがない……。即死を狙った一撃)


 「これ……現実側で殺された榊さん、赤城さんと“同じ手口”です」


 アデルは歯を食いしばり、拳を壁に叩きつけそうになりながら抑え込む。


 「クソっ……二人目だ。

  この要塞の中で殺人など……完全に“挑発”している!」


 ◆ ◆ ◆


現場検証


 ハレルは周囲をひとつひとつ確認する。


 ・争った形跡はなし

 ・扉は内側からは施錠されていない(=今回は密室ではない)

 ・部屋の外に“気配を探ろうとした”痕跡

 ・メオの手はうつ伏せのまま軽く開いている(=驚いて倒れた可能性)


 リオが口を開く。

 「メオは剣技が得意だった。抵抗できないほどの速さ……」


 アデルが深い息をつき、言う。


 「犯人は……行動を急いでいる。

   昨日のレオンより、はるかに無茶な手口だ」


 リオもうなずく。

 「俺たちの検査が進んでいたから、焦ったんだろ」


 ハレルは静かに思考を巡らせた。


 (現実でも密室で殺された人たちは“若い男性”だった。

   そして名前……赤城翔、榊良太……

  共通点……ある、はず……だが……)


 何かがひっかかる。

 しかし、まだ“形”にならない。


 ◆ ◆ ◆


現実側との“つながり”


 ハレルはリオとアデルに向き直った。


 「……そういえば、赤城翔さんが殺される前に

  “葉山レオさん”という乗客がこう言っていました」


 リオ「……葉山レオ? レオンと似てるな」


 「『君ら? さっき僕の部屋のドアノブをガチャガチャやってたの?』と。

  誰かが“部屋を探っていた”ようなんです」


 アデルが眉をひそめる。


 「標的を“探す”行動……こっちの犯人とも一致する。

  やはり――双方は同じ“誰か”の仕業だ」


 ハレルは胸に重い不安を抱えた。


 (犯人は……両方の世界を行き来している。

  でも、動機は……?)


 ◆ ◆ ◆


名前の記録


 アデルは胸ポケットから黒いメモ帳を取り出した。


 「ハレル、被害者全員をここへ書け。現実側も含めてだ」


 「はい」


 ハレルはペンを走らせる、その途中。


 アデルが小声で

 「……すまないが、カタカナで書いてくれるか?」


 ・サカキ リョウタ

 ・アカギ ショウ

 ・レオン=バークハルト

 ・メオ=キルガ


 リオが横でぼそっと言う。


 「やっぱり漢字、苦手なんだな」


 「う、うるさい! 黙ってろ!」

 アデルは顔を赤らめ、咳払いでごまかした。


 その滑稽な瞬間でさえ、

 張りつめた空気は消えなかった。


 ◆ ◆ ◆


急速に迫る焦燥


 ハレルの胸元のネックレスが――

 ピリッ……と熱を帯びた。


 (まずい……何かが起きる)


 「セラ……! 聞こえるか?  現実世界に戻る。急がないと――」


 《……ハ……ル……境界……揺れ……転移……可能……》


 リオがハレルの肩を叩く。


 「気をつけろよ。こっちの状況は俺がなんとかする。

   お前は“現実側”を頼む」


 アデルもうなずく。


 「行け、ハレル。

  あっちの世界で捕まえられるのは、お前しかいない」


 ハレルは息を呑み、ネックレスを握る。


 「……必ず戻ってくる。二人とも気をつけて」


 白い光が視界を包み込み――

 ハレルの身体は、現実へと引き戻されていった。


 ◆ ◆ ◆


豪華客船オルフェウス号・ハレルの客室


 ドンッ――!


 ハレルは床に着地し、すぐに姿勢を整えた。


 「お兄ちゃん!」

 サキがベッドの端から立ち上がる。


 「おぉ、戻ったか!」

 木崎がコーヒーのマグを持ったまま、安堵の息を吐く。


 ハレルは息を整えながら顔を上げた。


 「……二人とも、大丈夫か。

  こっちも――急がないと、まずい」


 胸元のネックレスは、まだ赤く微かに熱を放っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ