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異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―  作者: 橘靖竜
第三章 双界の連続殺人

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第二十四話 第三の殺人

 一夜明け。

 豪華客船オルフェウス号の廊下には、どこか重い空気が漂っていた。


 クルー・榊良太が“不可解な死”を遂げた後――

 船長は客には事実を最低限だけ伝え、

 昨日と引き続き一部フロアをブロックごとに封鎖していた。


 ブロックの境界には二名一組のクルーが立ち、

 「安全確認のため、一時的に移動を制限しております」

 と柔らかく説明している。


 ハレルたちの宿泊区画は、

 約36名の乗客をひとまとめにした“ブロックC”。

 その中央通路に立つクルーの表情も固い。


 (榊良太の焦げた刺し傷……

  魔術による“焼け焦げ”だと、どう説明する?)


 ハレルはため息をつきながら、

 早朝の客室を一つひとつ回っていた。


 目的は――また“容疑者18名”への聞き込み。

 昨日は全員に拒否されたが、スマホを見せてもらえば容疑者から外せる。


 異世界の話など出来ないのがもどかしいが、もう一度。


(転移者なら、スマホのアプリを使うはず。)


 案の定、乗客たちはスマホの提示に猛反発だった。


 「また!?なんで乗客が捜査みたいなことされなきゃならないのよ?」

 「プライバシーだろう! 勝手に見るな!しつこいな!」

 「スマホと殺人に何の関係があるってんだ!」


 ハレルは何度も頭を下げたが――

 誰一人としてスマホを見せようとせず

 クルーに要望しても、「確認義務はありません」と断られた。


 通路の端でハレルと木崎が肩を落とす。


 「……やっぱり駄目だな」

 「だが、情報がゼロってわけじゃない」


 気になったのは――


 葉山 レオ「君ら?さっき僕の部屋のドアノブをガチャガチャやってたの?」


 当然、ハレルたちではない――もしや。


 木崎は周囲の乗客をちらりと見た。

 昨日よりも明らかに、乗客たちは怯えている。

 子どもを連れた家族は部屋の前に椅子を出し、

 夫婦は互いの腕を握りしめていた。


 「この“閉じ込められた感じ”――

  犯人がこの中にいるとしたら、きっとまた動く」

 その言葉を聞いた直後だった。


◇  ◇  ◇


 ――金属のぶつかる音。


 ハレルは反射的に走り出した。

 木崎もすぐ後ろにつづく。


 音がしたのは、ブロックCの最奥――

 客室“C-427”。


 扉の前には、困惑するクルーがいた。


 「部屋の中から……物音が。応答がないんです」


 「鍵は?」


 「内側からロックされています」


 ハレルは即座に胸が凍る。


 (また……密室?)


 クルーがカードキーを当てるが、

 “内鍵”の警告音が鳴るばかり。


 「押します!」

 ハレルと木崎は扉に体重をかけた。


 ――ガンッ!

 ――ガンッ!


 数回体当たりしたところで、

 内側の障害物がずるりと動いた手応えがあった。


 扉が少しだけ開く。


 ハレルはそこに手を入れ、思い切り押し広げた。


◇  ◇  ◇


 室内には、冷たい海風が流れ込んだ。


 床に倒れている若い男性。


 その顔には、

 “叫ぼうとした途中”のような、

 歪んだ驚愕の表情が固まっている。


 目は大きく見開かれ、

 虹彩がわずかに乾いて白く濁り始めていた。


 胸の中央には 焼け焦げた円形の刺し口。

 周囲の皮膚は黒く炭のように縮み、

 焦げた臭いが部屋の空気に混ざっている。

 まさに、榊良太と同じ痕だった。


 木崎が唇を噛む。


 「……赤城翔あかぎ・しょう

  昨日、名前を聞いた客のひとりだな」


 周囲には倒れた椅子と、散らばった衣服。

 ベッドの脇には、倒れた姿見の鏡があり、

 扉の前には動かされたキャリーケース。


 完全な密室。


 ハレルは、赤城の瞳にまだ残る“恐怖の形”に

 喉がひりつくような感覚を覚えた。


 「ハレル……」

 木崎の声がかすれる。

 「これは、もう偶然じゃねぇ」


◇  ◇  ◇


 そのころ――


■異世界:ゼルドア要塞城

 訓練場・昼休憩


 午前の訓練を終えた兵士たちが、

 大鍋の周りに集まり、湯気の立つスープを受け取っていた。


 しかし誰の顔にも笑顔はない。


 「聞いたか……レオンの部屋、内側から鍵が……」

 「胸を貫かれてたって……魔術か?」

 「この島は転移封鎖されてるはずだろ……?」


 噂はしずかに広がり、兵士たちを飲み込んでいく。


 リオは少し離れた石段に座り、

 スープをひと口すすると、

 腕輪の内側がほんのりと光った。


 (……境界が揺れてる)


 その不安定な鼓動は、

 ハレルを思い出させた。


 (向こうで何かあった……?)


 アデルが近づく。

 「食べ終わったら午後訓練だ。気を抜くな」


 リオは小さくうなずき、目を伏せた。


 (嫌な予感がする。

  ……ハレル、無事でいてくれ)


◇  ◇  ◇


■オルフェウス号・Cブロック


 ハレルは赤城翔の遺体を見下ろしながら、

 胸をつかれるような感覚に襲われた。


 (この手口……

  リオの世界の殺し方と同じだ

  まさか……本当に“二つの世界で同時進行”なのか?)


 木崎が天井をにらみつける。


 「ハレル……この密閉空間で、犯人はまだ“ここにいる”ぞ」


 ハレルは拳を握りしめ、

 次の瞬間、胸元のネックレスが淡く光った。


 ――チリッ……


 境界の向こうから、

 かすかな 声のような気配 が届く。


 リオの声にも似ていた。


 (リオ……?)


 だが音はすぐにノイズに消えた。


 第三の殺人。

 密室。

 焼け焦げた刃痕。


 榊良太、赤城翔…..。そして異世界側の被害者。


(何か、何か共通点があるはずだが分からない。

 だが、何かが引っかかる…..。何だ?)


 静かだった海上都市が――

 ゆっくりと死の気配に染まり始めていた。


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