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異世界殺人―クロスゲート・サスペンス―  作者: 橘靖竜
第三章 双界の連続殺人

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第二十三話 訓練と聞き込み

以下の文章の校正をお願いします。↓


 翌朝、《オルフェウス》号の船体を、淡い朝の光が包み込んでいた。

 しかし、その美しい景色とは裏腹に、船内の空気は緊張に満ちていた。


 昨夜、クルー・榊良太が密室で死亡した事件は、詳細を伏せられたまま、

 「船内で事故が発生しました。安全確認のため、一時的に区画を分けます」

 という説明で乗客に伝えられていた。

 

 パニックを防ぐための措置だったが――

 通路には常にクルーが立ち、行き来できる範囲は厳しく制限されている。


 サキはベッドに腰掛け、落ちつかない様子で膝を抱えていた。

 「……ねえお兄ちゃん、昨日のってさ、本当に“事故”なの?」

 「まだ断定はできない。ただ――普通の事故に見えないんだ」


 ハレルは声を落とした。

 胸元のネックレスは今朝から、微かな震えを帯びたまま熱を保っている。

 嫌な予兆だった。


 木崎が腕を組み、部屋の壁に寄りかかる。


 「船長から、乗客の移動制限の説明があったな。

   だがハレル、俺たちにはもう一つやることがある」


 「……18人の“候補者”か」


 ハレルたちの“ブロック”には36名の乗客がいる。

 家族連れや高齢者を除いた18名――

 単独参加、または同性同士のグループで行動している者たち。

 今回の事件に関わる可能性が最も高い「候補者」だ。


 「転移者かどうかを確かめるには、スマホの中身を見るしかない」

 「だがプライバシーで全員に拒否されるだろうな」と木崎。


 ハレルはうなずいた。

 「……それでも話は聞かないと。細かい違和感でも拾っていく」


 「よし、しらみつぶしだ。行くぞ」

 ふたりは客室を出て、“聞き込み”が始まった。


◆ ◆ ◆


ブロック内・乗客18名への聞き込み


 ハレルと木崎は、客室ブロックの乗客18名全員の部屋を順にまわった。


 クルーには「事故の調査」としか伝えられていない。

 だが、本当の目的は“転移者”かどうか――

 つまり スマホにクロスゲート関連アプリが入っていないか を確認するためだ。


1人目 *田嶋 泰斗(たじま・たいと|会社員)

 「スマホ? いや……その、プライベートなんで見せるのはちょっと……」

 視線を泳がせ、落ち着かない。


2人目 *古谷 美佐(ふるや・みさ|OL)

 「アプリ? 変なものなんて入れてませんよ。……でも見せるのは嫌です」

 扉を半分閉じながら答える。


3人目 *石森 修平(いしもり・しゅうへい|学生)

 「昨日からクルーが変なんですよ。何があったんですか?」

 「スマホ見せてくれ」と言われると表情が固まり、首を横に振る。


4人目 *赤城 翔(あかぎ・しょう|学生)

 黒髪の青年。どこか刺々しい目つき。

 「……またスマホのことですか。入れてませんよ、“あのアプリ”。

  ニュースくらい見ますし」

 目つきは怪しいが嘘はついていないように見えた。


5人目 *葛原 レア(くずはら・れあ|バイト)

 やや青白い顔の痩せた女性。

 「ねぇ、あんたクモダ?クモガ? ハ……ラル?」

 「……ハレルです」 「そ、そう。それそれ~。スマホは見せないよ?やだもん」

 どこか“感情が抜け落ちたような”笑顔だった。


6人目 *桑名 理仁(くわな・りひと|バイト店員)

 「俺、ゲームほとんどやらないんで……。でもスマホは勘弁っす」

 腰が引けている。


7人目 *槙野 アヤ(まきの・あや|看護学生)

 「昨日、悲鳴みたいなの聞きました……。怖いです。

  スマホは……ごめんなさい、見せたくないです」


8人目 *芹沢 直斗(せりざわ・なおと|営業)

 「調査協力は分かりますけど、スマホは業務秘密もありまして」

 木崎を警戒している。


9人目 *斉木 蓮(さいき・れん|カメラマン)

 「写真のデータが多いんで……ちょっと無理です」

 落ち着きはあるが拒否は拒否だ。


10人目 *濱中 里沙(はまなか・りさ|主婦)

 「子どもに預けた動画とかあるので……。ごめんなさい」

 夫と幼児連れ。家族で来ているため、木崎が「除外か」とつぶやく。


11人目 *木戸 春馬(きど・はるま|大学生)

 「スマホチェックなら船のクルーに言ってくださいよ……」

 協力する気はゼロ。


12人目 *葉山 レオ(はやま・れお|美容師)

 「なんの事件なんすか? クルーさん死んだって噂、本当?」

 質問ばかりで、スマホ提示は拒否。


13人目 *佐世 結衣(さよ・ゆい|大学院生)

 「スマホ見せるのはちょっと……。ゼミの資料とか」

 目が泳ぎぎみ。だが異様な点はなし。


14人目 *大迫 冬真(おおさこ・とうま|警備系職員)

 「調査だろ? だがスマホは職務規定で見せられない」

 職業柄頑なに拒否。


15人目 *村井 ソラ(むらい・そら|高校生)

 「ゲームするけど、“クロスワールド・ゲート”は怖いから入れてません」

 震え声で答える。


16人目 *中務 大地(なかつかさ・だいち|消防士)

 「消防の個人情報も入ってる。協力したいが……見せられん」

 誠実そうだが提示は不可。


17人目 *沢渡 美咲(さわたり・みさき|フリーター)

 「スマホ……やだぁ。プライベートですよ?」

 木崎が「こういうタイプが一番怪しいんだよな」と小声でつぶやく。


18人目 *百合川 ハル(ゆりかわ・はる|教師)

 「申し訳ないのですが、個人情報保護の観点で……」

 丁寧だがきっぱりと拒否。


◆ ◆ ◆


そして――


 全員、スマホの提示を拒否。

 明らかに怪しい人物もいない。

 ただ一つ――


 (……全員、事件の内容を“知りすぎている”……)


 クルーは「事故」としか説明していないはずなのに、

 18人全員の口ぶりには“死んだ”という前提がちらついていた。


 まるで、何かに導かれているかのように。


 木崎が腕を組む。

 「妙だな……“噂の広まり方”が不自然だ。

  誰かが意図的に情報をばらまいてる気がする」


 ハレルは喉の奥に小さなざらつきを感じた。


 まだ“答え”には届かない。

 ただ、胸の奥が、警告するようにざわめいていた。


 ◆ ◆ ◆


 一方その頃、異世界。


 イルダ王国近海の絶海の孤島――

 石壁に囲まれた古城《ゼルドア要塞城》。


 広大な訓練場で、リオと訓練兵たちが汗を流していた。


 「そこっ! 詠唱が遅い!」

 「剣の角度が甘い、やり直し!」


 アデルはいつも通り、容赦がない。


 「リオ、お前は捕縛魔術の構成式がまだ甘い。

   もう一度、第三級の基礎からやり直すぞ」


 「……はい」


 その返事に、訓練兵が小声でつぶやく。

 「アデル様って、あれでも去年より優しいらしいぞ……」

 「でも最近“逃げた転移者の件”で情緒不安定だったって聞いた」


 アデルが振り返る。


 「聞こえているぞ」


 兵士たちが一斉に姿勢を正した。


 そんな騒ぎの中、リオの腕輪がふっと揺れる。


 (……ハレル?)


 微弱な振動。

 境界の揺れと同じ、あの独特の感覚。


 しかしノイズだらけで、声までは届かない。


 「どうした、リオ?」

 アデルが問いかける。


 「……いや。少し、嫌な予感がしただけだ。」


 アデルは鋭い目で空を見上げた。

 「この島の魔力流にも微かな乱れがある。慎重に動け」


 訓練場の向こう側では、調理用のテントが立ち並び、

 食事係の女性たちが大鍋をかき混ぜていた。

 香ばしいスープの匂いが風に乗り、兵士たちの緊張をほんの少しだけ和らげている。


 そのさらに奥では、医療班が簡易テントを張り、

 昨日の訓練で負傷した兵士の手当てをしていた。

 包帯を巻かれた青年が小声で仲間に漏らす。


 「……なあ、お前聞いたか? レオンの死体、胸を貫かれてたらしい」

 「密室だったんだろ? どうやって殺したんだよ……」

 「犯人、まだこの城の中に“いる”ってことだよな」


 噂はすでに兵士全体へ広がっていた。

 訓練場に渦巻く空気には、昨夜までにはなかった

 得体の知れない恐怖 が混じっている。


 魔術訓練区域では、若い兵士たちが杖を構え、

 捕縛魔術・盾魔術・索敵魔術の基礎式を繰り返していた。


 「詠唱もっと速く! 今のじゃ、敵に先を取られる!」

 「構成式の形が違う! 線が歪んでいる!」


 アデルの叱咤が飛ぶと、兵士たちは一斉に背筋を伸ばす。

 彼女の指導は厳しいが、的確だ。

 それを知っているからこそ、誰も文句を言わない。


 リオは訓練の合間に息をつきながら、

 周囲の兵士たちの沈んだ表情を眺めた。


 (……みんな、怯えている。

   当然か……レオンの遺体を見た連中も多い)


 胸の奥に、不安が渦を巻いた。


 (ハレル……そっちは大丈夫か)


 その瞬間、腕輪がかすかに揺れ――

 境界のノイズを含んだ震動が、リオの手首をくすぐった。


 (……つながりかけた?

   ハレルか、セラ……?)


 だが声は届かず、ノイズだけが残った。


 アデルが近づき、小さく囁く。

 「気を抜くな。いま、この城に“何か”がいる。

 それは兵士たちも感じている」


 リオは静かにうなずいた。


 ◆ ◆ ◆


 夕方。

 ハレルと木崎はブロック内の聞き込みをひとまず終えた。


 成果は――ほとんどなし。


 それでも、ハレルの胸中にははっきりとした“違和感の種”が芽生えていた。

 (犯人は……まだこの中にいる。

   でも、ぜんぜん足跡を残さない……動機はなんだ?)


 夜の海が、静かに《オルフェウス》号を包んでいく。


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