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悟りを知らない美人インストラクターの悩み

作者: 和 弥生
掲載日:2025/10/07

私はヨガのインストラクターを渋谷界隈でしている。


小林 祐子 32歳独身。


廻りからはセレブでお金持ちと観られ、成功者だと思われている。


しかし、このヨガスタジオを維持するのためには、経費が莫大にかかる。


なにしろ家賃が高い。月50万だから。


でも、自分を高めてゆくには必要なものだった。


おかげさまで口コミを通してスタジオに来るお客さんは増えた。


早朝8時から開いているが、出勤前のOLが来るかと思いきや、


年配の男性が多い。白人、日本人、アジアン、イスラム、色々。


私の美ボディが目的なのはわかっていた。


ぴったりフィットしたヨガスーツは、見ようによってはかなりエロい。


自分でもわかってる。


とにかく顧客がいなければ、このスタジオを維持できない。


だから割り切っている。


高い月謝を払ってくれる人は私にとって神様だ。


時々デートに誘われる。


全て断っている。


普段は、早朝のヨガ教室が終わった後、軽く朝食を食べる。


私はビーガンなので、植物系のヨーグルトとバナナ。


それと、アーユルベーダ茶。


そしてその後、女性専用クラスを2つこなして、1日の仕事は終わり。


午後は自由気ままに渋谷か原宿を歩いて家路へ。


とりあえず、世間的に見たら、ヨガの美人インストラクターの成功譚だろう。


ある時、一人の生徒(女性)に聞かれた。


「先生は美を追求してるのですか?それとも悟りですか?」


痛い所を突かれた。


「どちらもよ。美を追求しながら、悟りも目指してる」


適当なことを言ってしまった。


まったく初心を忘れていた。


いつの間にか、美を追求するフィットネスクラブみたいになってたからだ。


彼女は私に初心を思い出させてくれた。


でも、ここに来るまで大変な努力をしたことは本当。


ヨガを志したときのきっかけは、救いを求めていたから。


人生が行き詰ていた。


仕事も恋も。


藁をもすがる気持ちで、ヨガの教室に入った。


そしてヨガの先生に救いを求めた。


当時は何もかも捨てたい生活をを送っていた。


仕事でパワハラ、セクハラ、恋人からはモラハラ。しまいには二股をかけられ、失恋。その後、アトピーに苦しみ、私の顔はボロボロに。仕事もやめ転々としてるうちに貯金も底をついた。


その時に天啓のようなものが私の中で芽生えた。


ヨガで人生を変えることができるのではないかと。


先生は本当に美人でスタイルが良かった。


40歳はとうに過ぎているのに、そのしなやかな身体は奇跡だった。


私もこうなりたい!


努力した。


食事も、肉を辞めてベジタリアンになった。


アトピーはどんどん良くなり、体もどんどん軽くなった。


ある日、先生に呼ばれた。


「私、スタジオをあなたに譲りたいの。私はインドに行ってくる。悟りを得る為に。あなたは一番悟りに近い状態にあるわ。だから私が帰ってくるまで、この教室を帰ってくるまで、あなたに託したいの。」


そう言い残して、先生はインドへ旅立った。


私は不安で押しつぶされそうになった。


案の定、恐れていた通り、それまでの生徒は、先生がいなくなると次々に脱会していった。


私は悟りに近いなんて嘘だ。


私にできることは、健康と美。


でも気が付いたら、生徒が一人だけになっていた。


私に悟りを目指してるかどうか聞いてきた生徒だった。


私より後から入ってきた子だったけど、決して美しい人とは思えなかった。


だから美しくなってほしいと本気で思ってたし、彼女もそうだと思い込んでいた。


しかし、一方で、私がスタジオを維持するために、あえて男性を引き付ける様な恰好をして男性客を増やしてきた。それがいけなかった。


あわてて、女性だけのクラスを作ったが、生徒は帰ってこなかった。


でも、彼女は不満があるのかも知れないのに、なんの文句も言わず、辞めなかった。


でも、ついに彼女の口から言われた。


「先生、私は先代の先生のように、悟りを目指していた頃が好きなんです。今の形でも構いませんが、悟りを目指すクラスを作ってくれませんか?」


そう言われても、私自身、悟りがなんたるかわかっていない。


「考えてみるわ」


でもどうすれば?


私はインドにいる先生に連絡を入れた。


「あなたが感じたことをやればいい。悟りなんて考えちゃいけない」


答えはシンプルだった。


悟りを目指すな 


とにかく瞑想をしなさい。


先生に言われた通り、時間があれば瞑想をした。


女性の生徒も、少しずつではあったが増えてきた。


ある時、瞑想中に何かがはじけたような気がした。


悟りではないが、自分を外側から認識しているような感じ。


誰かに伝えたい。


本気でそうも思った。


あの彼女に終了後、私が感じたことを素直に言った。


「私は未だに悟りを得ていません。だけど、一緒に悟りを目指すことを目的にクラスは開けません。ただし瞑想は出来ます。瞑想クラスを作るので手伝ってください。」


私はついに彼女の賛同を得て、瞑想教室を開くことにした。


彼女は瞑想クラスでは生き生きとしていた。


瞑想はただただ座禅するだけ。


悟りは目指さない。


でも私と彼女は、究極の悟りとは何か?


という点で一致していた。


そしていつしか、私はホントの悟りを求めてインドに旅をしたくなった。


彼女もインドに行きたいと言った。


私はインドに電話をかけた。


「私と同じ道に来るのね」


インドで修業中の先生が言った。


「インドにはいろいろなマスターがいるわ。もしインドに来るなら紹介してあげる。それで、実は私は日本にもどるわ。日本でやりたいこと見つかったの。あなたに教室をあずけてよかった。大変な苦労をさせてごめんなさい。」


「そんなことはありません。私もインドで修業して悟りたいと思います」


「ほら、だめよ。悟りたいと思ってはダメ!」


そうだった。


悟りとは結果であり、目的ではないのだ。


究極の目的とはいかに生きるかであり、


悟りはその途中の成果でしかない。


私はひとまず教室を閉鎖することにした。


この先、何が起こるのかわからないが、不安はない。


そろそろお金の為にヨガをやることに辟易としてたし。


そう考えながら、瞑想していると、


過去に出会った人田との顔が次々と浮かんできた。


ふと、こんな言葉が浮かんできた。


私を不幸にしていた人たちを祝福する。


私に生きるきっかけを与えた人たちだから。


私は心から彼らに感謝した。


私はその人たちの上から花びらをかけた。


祝福する=愛なんだ。


私は光悦に震えていた。


そして涙が出てきた。


私は、既に悟っていたのかもしれない。


これが悟り?


ふと横を見ると彼女も泣いていた。


「あなたも悟ったのね」


「はい」


私たちはインドへ行くことを辞めた。


そして、先代にこの教室をお返しして、


自分の為に、あらたなヨガ教室を探すことにした。


彼女も独立することにしたらしい。


この悟りを一人でも多く、分かち合いたい!


その気持ちだけが、胸に高まった。


私の胸に大いなる愛が目覚めたのだ。


外見だけの美はヨガではない。


私は内面こそ美しくなるための、ヨガメサッドを目指す。


それこそが、真の平和をこの世界にもたらす。


悟りを得た後、私は自分の使命に気が付いたのである。


悟りはあくまできっかけ。


悟りを追求しても何もわからない。


人は何を悟るかではなく、どうやって生きるか。


それがわかれば、誰もがヨガマスターなのだ。


終わり

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