鏡の中の……
果たして企画内容と合っていると言えるのだろうか?
どきどき
朝起きて、何時もの様に歯を磨く。
歯磨きは食前か、それとも食後かと言われると食後派の僕だが、寝起きは別だ。
寝起きの口内のねっとり感が気になってしょうがないので、うがい、歯磨きを終えてから朝食の支度になる。
そんな寝起き早々なので、視界はしょぼしょぼ、脳内も靄が掛かった様な状態ではあるのだが。
だがこんな生活をしている僕でも虫歯という不治の病からは逃れられないものなのだろうか?
何となくではあるが、歯が痛い気がするのだ。
だが、場所が悪いのか鏡だと今ひとつ確認出来ない。
結局普段よりも念入りに歯を磨き終えた、そんな時だった。
鏡の中の自分の表情が、少し歪んだ気がした。
口元が三日月の様に弧を描いた。 端的に言えば笑ったように見えたのだ。
今、自分は笑っていただろうか? 汚水を吐き捨て、無表情に近い顔ではなかっただろうか?
いや、そもそもが寝惚け眼のせいではなかったのか。
目を擦り、鏡を見つめる顔は何時もの自分の表情だ。
――気のせいか。
そう思った時、鏡の中の僕は満面の笑顔を浮かべた。
思わず、硬直する。
固まる僕を嘲笑うかの様に鏡の僕は、嫌みったらしい笑みを浮かべ、大笑いを始めた。 声は聞こえない。
だが大口を開けた笑う様は呵々大笑という他ありえない。
「そのまま動くなっ!!」
唐突な僕の声に、鏡の中の僕は口を開けたまま、その動きを止めた。 視線がゆっくりとこちらへ向けられるが、存外素直である。
僕は鏡に顔を寄せる。
鏡は僕を映さずに、鏡の中の僕を映し続ける。
「もう少し上を向いて」
僕のリクエストに、鏡は「何言ってるんだコイツは?」みたいな呆れた表情を浮かべる。 でも律儀に口を開けたままなのは、ちょっと間抜け。
「上を、見ろっ!!」
強く言うと、鏡の僕は閉じようとしていた口を開け直し、ゆっくり上を見始めた。
「よし ――止まれ!」
平面ではあるが、鏡の中の自分は意外と見やすい。
僕は鏡の中の僕を見る。
じっと、見つめる。
「………………よし!」
僕の声を聞いて、鏡の僕の表情が何かを問いかける様なものになる。
恐らく、だが、「もういいか?」と問い掛けている。
「ああ、もう大丈夫だ」
そう言われ鏡の僕は表情を僕のものに変える。
「ありがとう、助かったよ」
その声は彼に届いたのかどうか、鏡の中の僕の表情は感謝の言葉を告げた僕のままだった。
「………………」
鏡の顔は変わらない。 相変わらずの僕のまま。
だけど、良かった。
虫歯がなくて。
めでたしめでたし?
ホラー → 鏡
水 → 水回り