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第3話 50ゴールド拾った!

 とんでもない。

 私が木陰で拾ったのはたったの10ゴールドだ。

 見知らぬ土地をくまなく探し歩いた末に手にした10ゴールドだが、たかだか10ゴールドぽっち、これじゃ換金できない小切手のように役に立たない。

 せめて『50ゴールド』コインを拾っていれば『ドルドン・ブレイク』にも泊まれたろうに。

 些かも不本意ながら、今晩は野宿であった。

 浜辺で寝ることにした。

 さんざめく波の音が心地よかったが、とても寝れたものではなかった。

 寒いし痛い。あと硬い。

 そして夜が明けた。



 ◯



 時に皇暦100024年、3月27日。

 しかし、その日は訪れなかった………



 ◯



 オカシイ。あえてどこがオカシイかを問うまでもなく奇っ怪千万だ。

 私は昨晩、寒くて痛くて硬い浜辺で野宿したはずだ。

 いや、まぁ、寒いのとせいぜい硬いのは同じなのだが。

 なぜ、私は『ドルドン・ブレイク』で目覚めたのだ?

 四方どこを見渡しても見知った『ドルドン・ブレイク』の一室。

 カチコチのベッド、カゴに盛られたオレンジ、壁に掛けられた印象派の絵画。

 昨晩の記憶と辻褄が合わない。

 ここは安宿だが、拾った10ゴールドぽっちで泊まれるわけがないんだ。


 突然の怪現象に私は困惑したが、そのことについては腹ごなしにオレンジを二つ食べてから考えることにした。

 考えた結果、一つの結論が浮かび上がった。


 私は”同じ1日を繰り返している”のかもしれない。


 何がどうして同じ日が繰り返されなきゃいけないのか。

 私には皆目検討も付かないが。



 ◯



 少年アルキメデス君は当年とって10歳。その朝は早い。

 7:00、アルキメデス少年は起床して間もなくピーターマッハ公園へ駆けつける。

 毎朝決まってこの時刻にピーターマッハ公園のベンチに腰掛け朝刊を広げる耄碌もうろくした老夫がおり、少年は老夫のすぐ脇に腰掛け一緒に朝刊を確認するのだ。

 しかし、アルキメデス少年は今朝の見出しに既視感を覚えた。

 否、既視感どころではない。

 『人間の乱獲によりメドゥーサボールが絶滅』、『スーザン海洋沖で発生した地震でダム・フィンパー皇国自然史博物館のドルドンの骨格標本が倒壊』、『プート・マーカー婦人に国民栄誉賞を授与』───いずれの記事も”昨日”ノートに自分でメモをつけたのだ。忘れるはずがない。

 朝刊の見出しに、全く同じ記事が並んでいる。


 僕は”同じ1日を繰り返している”。


 アルキメデス少年はそう確信するに至った。

 そして、そのことについて少年は疑いもせず、また驚きもしなかった。

 


 ◯



【極秘】ビューティフル・ドリーマーに関するメモ


 ・このビューティフル・ドリーマーには大きくわけて2つの能力がある

  1.同じ1日を何度も繰り返してしまう

  2.2度目以降の世界では”特定の人物”を自由に操ることができる


 備考

 ・僕だけが同じ日を繰り返していることを認識している

 ・この能力は『神殿』に行った日から身についたと思われる

 ・自分の意思で発動させることはできない

 ・自分の意思で解除することもできない

 ・僕が何かに失敗したり何かが納得できなかった日などに発動する

 ・同じ日をやり直して、僕が納得を得ると自然と解除され明日が来る



 ◯



 アルキメデス少年が『ビューティフル・ドリーマー』と名付けた能力、それは本人が『やり直したい、納得が行かない』と思う1日を無限に繰り返してしまう。

 アルキメデス少年は昨日、大好きなお姉さんに『無視』され、その純粋な心を大きく痛めることになった。

 結局あの後、アルキメデス少年は尾行を取りやめ、ピーターマッハ公園でしばらくの間考え、カッちゃんとの約束のため大衆食堂『ちからの種』へ向かった。

 だが、少年の心はそのまま明日を迎えることを許さなかった。

 許せなかった。

 お姉さんに『無視』されただけではない。

 お姉さんに関する数々の違和感───それらをひっくるめて、アルキメデス少年の脳内には一つの仮説が導かれていた。


 あの『お姉さん』は、『お姉さんの偽物』なのかもしれない。


 偽お姉さんの化けの皮をひん剥いて、正体を暴いてやる。


 本物のお姉さんをどうしたのか、問いただしてやる。


 明日まで待ってやるものか。


 少年の心に正義の炎が燃えていた。

 アルキメデス少年は同じ1日とはいえ学校へ行き、その間、偽お姉さんを出し抜く計略を練っていた。

 もはや、お姉さんが本物のアリシア・パリ・テキサスである可能性など僅かも残らず頭から吹き飛んでいた。



 一方その頃、アリシア・パリ・テキサスは引き続き懐事情を工面すべく、孤独な気持ちでアッペレザス村を歩いていた。

 見ず知らずの少年が、まるで身に覚えの無い出来事を取り沙汰して自分を『偽物』呼ばわりしているなど知るよしもなかった。

 

 チャリン!


 小気味よい物音がし、ふと目線を下げると50ゴールドコインが落ちている。

 これは儲けた、と喜び勇んで拾い上げる。

 拾おうとした手は、『右手』だった。

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