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第2話 アルキメデス少年の走り書き

 今朝の朝刊で気になった記事についてのメモ


・『人間の乱獲によりメドゥーサボールが絶滅』

  僕らは人類文明の影で滅びてゆく存在にいい加減気づかなきゃイケない。

  人間のこーいうとこがダメだ。許せない……


・『スーザン海洋沖で発生した地震でダム・フィンパー皇国自然史博物館のドルドンの骨格標本が倒壊』

  これは恐るべき損失だ。

  国はこの事態を重く受け止めるべきである。


・『プート・マーカー婦人に国民栄誉賞を授与』

  こんな気持ち悪い絵を描く人がどうして褒められているのだろうか。

  僕には芸術を理解する心が無いのかもしれない。



 ◯



学校での出来事について軽くメモ


 昨晩『小市民ケーン』を読み終えた僕は少々慢心していたのかもしれない。

 今朝いつものように登校すると、隣の席のヒッちゃんが『キレ散らかした葡萄』という小説を読んでいた。

 僕はこれを読んだことはないが、今年のグランドネビュラ賞を受賞した傑作長編であるらしい。

 ほんのちょっぴり覗き見すると、1ページにミッチリ字が詰まっていた。

 同じクラスのヒッちゃんがこんなに字の詰まった本を読んでいたとは予想外だ。

 僕も精進しなければ。





【極秘】お姉さんに関するメモ


 ・お姉さんの本名:アリシア・パリ・テキサス


 ・お姉さんの年齢:17歳(サバ読んでいる可能性アリ!)


 ・お姉さんの身長:156cm


 ・お姉さんの体重:50kg未満と推定


 ・お姉さんのスリーサイズ:上から84、54、80


 ・お姉さんの誕生日:1月11日


 ・お姉さんの出身地:アマロガスタ区


 ・お姉さんの利き手:左手


 ・お姉さんの歩幅:60cm程度と推定


 備考

 ・『遊び人』を自称していて、本当にゲームが強い

 ・いつもメルちゃんと一緒にこの街に来る

 ・メルちゃんとこの街で”何かの調査”をしているらしい

 ・『ホテル ドルドン・ブレイク』の決まった部屋にしか泊まらない

 ・お姉さんにはお姉ちゃんがいるらしい



 ◯



放課後の出来事に関してのメモ


 ピーターマッハ公園から北西50m地点でお姉さんを発見した。

 お姉さんの姿を見るのは実に3日ぶりである。

 しかし、挙動に不審な点が確認できる為、30mの距離を保ったまま尾行を開始。

 周辺にメルちゃんの姿は確認されない。

 これから大衆食堂『ちからの種』でカッちゃんとの待ち合わせがあるが遅れる可能性アリ。


 尾行を開始して30分経過。

 やっぱりお姉さんの行動は不審な点だらけだ。

 とはいっても、この30分の間お姉さんがしたことと言えば、小腹が空いたのか歩きながらオレンジを二つ食べて、小銭が落ちていないか探すようにキョロキョロしながらとにかく歩いていただけだ。

 けれど、これが不審で仕方ない。

 何がどう、といわれてちっとも言語化できない自分が悔やまれる。

 あえて言うなら、歩き方やオレンジを食べる仕草がどこか”男っぽい”気がする。

 これはまだ僕の主観的な見解でしかないので保留。


 尾行を開始して45分経過。

 ラチが明かないので、僕はお姉さんとの接触を試みた。

 正面から、まるで偶然バッタリ会っちゃた的なシチュエーションを装ってお姉さんと挨拶を交わそうというのだ。

 結果から書く。

 お姉さんは僕を『無視』した。

 訂正、お姉さんは僕のことに全く気付いてさえいなかった。

 すれ違っても僕の方を振り向きもしない。

 僕のことなんかちっとも知りませんって感じにスルー。



 これは一体、お姉さんに何が起きているのだろうか。

 たった3日合わなかっただけでお姉さんは僕のことを忘れてしまうだろうか。

 もしそうなのだとすれば僕は深く傷つくことになる。

 それに、近くで見ると何だか”お姉さんがお姉さんじゃない”ような気さえした。

 これも僕の主観的な見解なので保留する。


 お姉さんは何者かに記憶操作をされたのか、それとも本当に僕を忘れてしまったのか。

 どちらにしても一大事である。

 カッちゃんとの待ち合わせ時刻をとっくに過ぎているが、僕はこのことをピーターマッハ公園でしばらく考えることにする。

 公園の隅に、かつてお姉さんとイケないコトになりかけた茂みが見えた。



 ◯



 隙間風のそよぐ『ホテル ドルドン・ブレイク』の一室でアリシア・パリ・テキサスは二つのオレンジに自身の素性について問いただしていた。

 しかし、その行為にさほど益が無いことを早々に思い知る。

 このオレンジ達はアリシアを「僕らのマブ」などと言いながらも、彼女の名前以上の素性に明るくなかったのだ。


『僕らに乙女のプライベートまで覗く趣味はネーのよ』

『そーそ、乙女は謎めいてるくれーが丁度いいんだわ』

『けど謎過ぎんのもダメだな。”おっぱいしか視えないくらい”が丁度いいんだ』

『おいおい兄弟、そいつは金言だなァ!』


『あとは、そうだな……アッ!思い出したぜ』

『兄弟まさかアレ、言っちゃうのかい!?』

『そのアレだよ。僕は一度だけ聞いたのさ……あんさん、”甘えたらどうなるんだい”?ってな』

『ヒューヒュー、プレイボーイだぜ兄弟!』

『そしたら姉ちゃんこう返したのさ……猫っぽくニャンニャンしちゃう///って』

『ニャンニャンしちゃうか、こりゃ堪んねーぜ!』


『それとよ、姉ちゃんが知りてーッ、つーなら他にも憶えが無いこともない』

『おう、僕も思い出したぜ。ありゃー確か、そう”メルちゃん”が言ってたぜ!』

『そうさ、”メルちゃん”が言ってた。あんさん、この村で”ナニカを調査してた”みてーだな』

『おいおい兄弟!ナニカってナンだい!?』

『てやんでい!そりゃ、”ナカにイレるモン”に決まってらァ!』


 のべつ幕なしに喋るオレンジ達だったが、聞けば聞くほど聞くに値しない。

 アリシアの失われた記憶に関して得られた情報は極めて僅かであった。

 アリシアは『メルちゃん』という人物と面識を持ち、このアッペレザス村で何かを調査していた───それらの事柄への関心は高まるばかりだったが、目下の課題を前に、それらは頭から吹っ飛んだ。


 つまり、カネが無い。

 いくら『ドルドン・ブレイク』が安宿といえど、タダ寝は許されないのだ。


 アリシア・パリ・テキサスは懐事情を工面すべくアテもなく街を彷徨う。

 孤独な気持ちで、とにかくアッペレザス村を歩いた。

 既に陽は傾き始め、空腹感からオレンジを二つ食べたが腹持ちが悪かった。

【超超超極秘!!】お姉さんに関するメモ



 お姉さんの髪の毛は金色だけど、下の毛は黒かった。

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