第0話 広い広い大草原で起きた小さな出来事
時に皇暦100024年、3月25日。
99歳の退役軍人セバス・トングラーは100歳の誕生日をあと僅かに控えていたが、不本意にも親類には訃報が知らされた。
息子に当たるトーマス・トングラーは父の死後、遺品整理に明け暮れたが遂に収集が着かず『色即是空、空即是色』と言い残し失踪。
セバス・トングラーが生涯を終えた青い屋根の一軒家はアーヴァン・レッジ通りに面しており、同日、今まさに失踪せんとばかりに駆け出したトーマスはこの通りの記念すべき100万人目の通行人となり方々から賛辞を贈られた。
一方その頃………
ドゥ・ブラッド地区から西南西に60km離れたアマロガスタ区では、100日かけて100作の画を描き上げようと思い立ったプート・マーカー婦人(59)が初志を貫徹し、その日いよいよ100作目に取り掛かるも、今日に限って友人知人に親兄弟から立て続けに画のモチーフのオーダーを受けた。
トリュフの画、アルパカの画、ニシオンデンザメの画……マーカー婦人は受けたオーダーから100作目に相応しいモチーフを悩んだ末、自画像を描いた。
込めたテーマは『性犯罪の根絶』。
アマロガスタ区領主のノッケルダム伯爵はマーカー婦人を絶賛し、後に国民栄誉賞を授与される。
また、スーザン海洋沖7km地点で発生した地震の影響でダム・フィンパー皇国自然史博物館で『ドルドン』の骨格標本が倒壊し全損した。
恐るべき損失である。
時を同じくして、ランベルト高原上空1000m地点で空の一点がポッカリと『穴を開け』、中から『全身を鎧に覆われた少女』が落下。
広い広い大草原の真ん中で、空から少女が降ってきた。
落下の衝撃は鋼鉄の鎧が防いだが、しかし少女は気を失った。
その数時間前ある事情から一世一代の家出を図った貴族令嬢アイム・エイトハーフは馬を駆り、プマゾマ湖畔を経由しランベルト高原を縦断。
その最中、大草原に横たわる鎧の少女を発見する。
カブトを外すと端正な顔立ちが現れ、鎧を外すとスッポンポンの丸裸が現れ、アイムは積荷から少女に衣服と少々の水を分け与えランベルト高原を後にした。
その後、少女はアイムを追跡中であったエイトハーフ家直轄の衛兵隊に保護され、5km先のアッペレザス村まで護送された。
その日ランベルト高原上空にポッカリ開いた『穴』を見た者は誰もいなかった。
◯
追記:
敢えて書き添えることがあるならば、だ。
それがおよそ万人の常識を瓦解させるほど凄まじい事実であったとしても。
『ソレ』を見た者は、鎧の少女───後に『アリシア・パリ・テキサス』という名が判明する少女を最初に発見したアイム・エイトハーフと、そして彼女が連れ添った従者のアメリ・ダイ・ハードだけであった。
鎧が外れ、生まれたままの姿を露わにしたアリシア・パリ・テキサスには、その肢体には、その下半身には、その股間部には───『あるはずの無いモノ』があったのだ!
そう、まさに『黒い黒い雑木林の小さな突起物』がッ!
あの手のひらに乗るような小さな小さな躍動感がッ!
生牡蠣のように純白であり、生まれたばかりの新生児の持つ頬のごときツヤを持った、紛うことなき『チ◯コ』がッ!!
アイム、アメリ両名は視線を釘付けにし、尚も我が目を疑った。
生えている。
そそり立ってはいなかったが、確かな存在感を目の当たりにした。
ここだけの話だが触りさえした。
しかし、真に驚嘆すべきはここからである。
そのおよそ想定し得なかった光景を前に、しかし両名は少女が『女性』である事実を疑いはしなかった。
チ◯チ◯が生えているのになぜか………?
そう、チ◯チ◯の生えた少女には、マンマンもあったのだ。
広い広い大草原で起きた小さな出来事(完)