07話 “階級”
ヅィギィアたちに諭され、竜帝国に戻ったメギドラ。次に巨像と戦い勝つためにヅィギィアたちから教えを乞うことにした。
ここから竜帝国での厳しい修行の日々が始まる───
「───と、思っていたんだがなぁ・・・何ですかこの状況は」
席に無理やり座らされたメギドラの前には分厚い本を持ったヅィギィアとそれを囲うようにヤトとラーノルドが立っていた。
「メギドラは竜としての知識が全くないからね、ひとまず竜帝国での常識くらいは覚えてもらわないと修行にすら移れないから、とりあえずまずは座学だ」
「・・・その前に、ヅィギィアさん以外は良かったんですか?俺がここに居ること」
ヅィギィアはメギドラのことを認めたが、ヤトやラーノルド、アルマなどはどう思っているか分からない。
もしかしたら断固反対されるかもしれないと思っていたが、予想と異なり、彼らの反応は淡泊だった。
「別にいいぞ、俺たちだって人間全てを恨んでいるわけじゃない。人間だから悪だとは思っていない。ヅィギィアさんからメギドラが元人間である可能性があると聞かされたときから・・・君が竜だと言えば受け入れるように気構えていたさ」
「メギドラを追う前からみんなで決めてたんだ。君がこちらに来るなら拒まず受け入れるって。ここにいるみんなはメギドラを拒絶しないよ」
そう言って左右からラーノルドとヤトに肩に手を置かれる。
少し安心した瞬間、後ろから敵意の視線を感じた。振り返るとヴィドルがアルマとベスティアが召喚したであろう黒と白の狼に乗られて拘束されている中、メギドラに敵意の視線を向けていた。
「・・・ごめん、みんなじゃなかった・・・まぁあいつはおいおいでいいや」
「ガルルルル」などと声を出し、狂犬のような表情を浮かべたヴィドルを無視して話を進めていく。
多分スルーしなくてはならないのだろう、そうメギドラは思った。
「ひとまず念のため聞こう。メギドラは竜帝国をどこまで知っている?」
「何も」
「うん・・・だと思ったけど」
「とりあえず、竜帝国の説明から始めましょう」
「そうだね」
少し落ち込んだヅィギィアをラーノルドが励まして話を進めていく。
「竜帝国の大部分は円形の壁で囲まれた国だ。そして中心には王の住処の竜帝城が建っており、そこから地域を三等分する壁が建っている。竜帝城から見たとき、その地区の方角をそのまま名前にした。北西部、南西部、そして東部の三つ。それぞれの地区を元帥級の竜たちが治めている」
(また出た元帥級)
「ここは南西部、元帥級のジャバさんが治めている地区だ。ちなみに北西部はムートさん、東部はミドガルズさんが治めている。ちなみにここから西へと進めば人間領だ」
「ここは治めている方の名前だけ覚えておけばいいよ」
「ちなみにその三地区に属さない場所もあるんだが・・・まぁそれは後でいい」
「次にさっきから出てる元帥級という名前だ。竜は強さが全て、その強さの指標がそう“階級”だ」
ヅィギィアはここから紙に書いて説明し始めた。
「階級は下から順に一般級→戦士級→上戦士級→精鋭級→将軍級→元帥級と上がっていく。さっき言った地区治めている三名が今竜帝国にいる元帥級だ。階級は上の階級の者たちが出す“試練”に合格して認められれば上の階級に上がることができる」
「なるほど」
「ちゃんとここにいる者たちにも階級はある。例えばラーノルドは精鋭級。アルマとヤトは上戦士級。そしてヴィドルとベスティアは戦士級だ・・・ちなみにもうメギドラは戦士級に入っているから」
「・・・はい?」
「メギドラは、戦士級に、入っているから」
「いや聞こえなかったわけではなくてですね・・・俺はここに来て間もないんですよ、いつ一般級から戦士級に上がったんですか!?」
「そうだね、一般級は結構面倒でね、戦う能力や意思が無く、戦い以外のことをやる者達を一般級と呼ぶ。例えばで言えば・・・人間でいうところの兵士か否かってことだ。でも竜は大体が戦士の種族。一般級は赤子か老体の者たちくらいだね。メギドラは戦う能力も意思もある。だからメギドラは戦士級なんだ。まぁ、戦士級が一番下みたいなものだけどね」
「へぇ・・・ってことは・・・」
メギドラはチラッと拘束されているヴィドルの方を見た。
するとヴィドルは遂に口を開いて吠えた。
「何だお前その目はァ!!言いたいことがあるならはっきりと言えェ!!」
うん、そんな反応すると思った。
そう考えながら面倒くさいと思い、サッと視線を外した。
「・・・“あんなに偉そうにしてたのに階級一番下なのかお前“だってさ~」
「勝手に変なアフレコしないでもらえますか!?」
「思ってないのか?」
「・・・・・」
「その反応は思ってる反応だな」
アルマやラーノルドの言った通り、少しはそんなことも思った。だが強さの面で言えばヴィドルの方がまだ強い。
そんなこと言えた立場ではない。
「・・・“ヴィドルの方がまだ強いと思うからそんなこと言えた立場じゃない”だってさ~」
「なっ!?」
「なんだと!?」
驚いた。全く同じことを言い当てられてしまった。
アルマはおちゃらけた言動が多いが稀に見せる彼のその部分に少し恐怖を感じた。
「いいんだよ別に~メギドラとヴィドルはほぼ同期みたいなものなんだからさ~、そういう遠慮みたいなのはしなくていいから」
「アルマさん」
「あ、ボクは上戦士級で先輩だからちゃんと遠慮して敬ってね」
「・・・余計な一言」
そんな他愛もない会話を続けながら、竜としての常識、翼での飛び方、逆鱗の使い方、それを理論的に学んでいく。
この前のように敵意を向けられる居心地の悪い環境ではなく、安らぎのようなものすら感じる居心地の良い環境となっていた。
「あぁそうだ・・・さっき元帥級が最も高い階級みたいな話をしたけどね・・・元帥級の上にもまだ階級はあるんだよ。ただ与えられる“試練”が難しすぎて誰もその階級になることができない」
色々な話を終えた後、最後にヅィギィアは語り始めた。
「階級の名は・・・竜帝級。竜帝級になった者はそのまま“竜帝”というこの国の王になることができる。だから大半の竜は“竜帝”になることを目指して強さを身につける」
「王になれば何ができるんですか?」
「簡単に言えば・・・ここ竜帝国の全てを得ることができる。竜帝になれば全ての竜は己の部下だ。他にも色々と特権はあるが・・・今のが一番のメリットかな」
「そんなに魅力的なら誰かは試練を突破できそうですが・・・そんなに難しい試練なんですか?」
「・・・難しいなんてレベルじゃない・・・私はただ聞いただけだが、その試練を行う場所が過酷な環境すぎて誰も試練を突破できていない。それも・・・数千年の間だ」
「数千年!?」
数千年、竜人の寿命は長い者でも千年と言われている。
百年千年努力を続けた者でもその試練を突破することができていないということだ。
そして竜帝国は、その数千年間、王のいない国なのだ。
「・・・その・・・試練の内容は?」
黙るヅィギィアにさらに質問を投げかける。
その質問を聞いた後、数秒の沈黙が流れ、ついに口を開いた。
「・・・・・山登りだ」
「・・・はい?」
「山登りだ!!」
「いやだから聞こえなかったわけではなくてですね・・・俺が言いたいのは、数千年間突破できなかった試練がただの山登りだとは夢にも思わなくてですね」
「そりゃそうだろう。私たちも話を聞くまでそんなものだとは夢にも思わなかったからね・・・それでも、数千年間誰も突破できていないという事実は変わらない。竜帝の試練はとある過酷な環境な山の頂上に到着すること。山の名は・・・死嵐桜山。その山はここからはずっと北へと進んだ先にある山であり、巨大な山を取り巻く巨大な嵐が吹き荒れる。強すぎる風の中降る雨は身を貫き、風は身を切り刻む斬撃に変わる。大地は崩れ、岩すら飛んで隕石のように降り注いで山の形を変えていく。例え絶対無敵と呼ばれた防御ですら崩し、何名もの竜が途中で力尽きる。行った者全員が口を揃えてこう言う。“あの場所が地獄でも何ら不思議ではない”と」
「・・・そんな・・過酷な試練が・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「さてと、座学はこのくらいでいいだろう。そろそろ実践と行こうか。アルマ、ヤト、頼むよ」
ヅィギィアが切り替えてそう言うとアルマとヤトに腕を掴まれ、どこかに連れていかれる。
連れていかれるメギドラを見て、みんなニコニコしながら手を振っていた。
「どこ連れて行くんですか!?」
「いい所だよ」
しばらく連れられて、二人が歩みを止めるとそこには無数の衣装が飾られていた。
「・・・これは?」
「メギドラのその衣装だとすぐにボロボロになっちゃうからね、着替えるついでに竜に見合った衣装を見繕ってやれってヅィギィアさんに言われてたんだよ」
「というわけでボクたちの着せ替え人形になってもらうからよろしくね~」
「え・・ちょ・・まっ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「さぁどうだい?いい感じだろう?」
「・・・俺こんな服着たことないんですが」
「イイじゃんイイじゃん、初めてのことを挑戦するのは大事なことだよ~」
「はぁ・・・そういうもんですか・・・」
メギドラはカーテンを開け、着替えた衣装を見せる。
血を扱う能力であるため、全体的に赤や黒、紺などの汚れが目立たない色に仕上げてくれた。
赤いシャツに鱗が見えるような半袖の紺色の羽織、そして血が目立たない真っ黒のズボン。そしてメギドラの着ける金色の腕輪に刻まれた竜の絵と同じ柄が綺麗に刺繡されていた。
巨大な翼が出せるように背中に通せるような穴が開いており、自由に翼が動かせる。伸縮性が優れており一切動きを邪魔しない。
デザインだけでなく、機能性に優れた素晴らしい出来だ。
しかしメギドラにはこんな服を着た経験がなく、何かこそばゆい感覚だった。
「───肌触りは良いからくすぐったくはないと思うけど」
「息を吸うように心を読まないでください」
「いくら怒られても謝る気は全くないよ♪」
「くそが」
「はいはい、無駄話は後。ほらメギドラ、ヅィギィアさんが待ってる、早く行くよ」
「分かりました」
そう言うヤトに反応してメギドラは外へと向かう。
その途中でアルマに呼び止められた。
「メギドラ・・・言わなくても分かってると思うけど、気を付けなよ」
「・・・何にです?」
「あのとき、言っていなかったけどね・・・ヅィギィアさんの階級は・・・将軍級だ。将軍級はここ竜帝国でも十名余しかいない強者たち。実質竜帝国を治めている三名の元帥級たちの懐刀。それが将軍級の竜たちだ。今のメギドラは背伸びしても届かない存在だよ。だから気をつけてね」
「・・・将軍級!!」
アルマは心配しているのだろうが、メギドラはワクワクしていた。アルマの話が本当ならば、ヅィギィアの実力は竜の中でTOP15には入る実力者というわけだ。
それから技を盗むことができるかもしれないのだ。ワクワクしないわけがない。
「では!行ってきます」
メギドラは少しトーンを上げて言った。それをアルマが気付かないわけもなく、ニヤリと口角を上げた。
「・・・やっぱりこれは、カンフル剤になるよね♪」
アルマは独りになった部屋の中で、静かにそう呟いた。