21話 “ここで目指すもの”
「またまた想定してなかったなぁ、こんなに早い頻度でここに来る奴なんていなかったからなぁ」
そんな声でメギドラは目を覚ました。
目を覚ましたというのは少し語弊があるかもしれない。
ここはメギドラの精神世界だ。実際のメギドラの肉体はまだ眠ったままの状態であるから、今のメギドラは明晰夢を見ているような状態である。
「いつまでその世界の終わり顔してるんだ?お前がそんな調子のままだったら、この世界もどんどん崩れていくんだ。いい加減立ち直れよ」
暗闇の先からそんな声が聞こえてくる。キナンカの声だ。
「村ではみんな死んだじゃないか、竜人も人間も同じ生物。殺されれば死ぬことくらいお前はよく分かっているじゃないか。その上これは戦い、誰がいつ死んでも酷い目に遭わされても仕方のないこと。それとも勘違いしてたのか?もう誰も死なないって、もう誰も傷つかないって、人間だった頃にはなかった力があるから大丈夫だって、そう思ってるなら改めろよ。んでその気持ちに折り合いつけろよ、あの女の子に言ったみたいに・・・なぁメギドラ」
そう話している内に、この空間にもう一つの人影が炎のように浮かび上がってきた。
その人影は竜と同じようにツノが生えており、背には天竜と同じような大きな翼が生え、まるで蛇の尾のような尻尾があり、腕には鱗も生えていたが、どれも竜のものとは毛色が違った。
高い背丈に筋骨隆々な肉体を持ち、右肩から異形化した骨が突き出した姿をしていた男だった。
双眸に光は無く、海溝のように光の差し込まない深淵のような目をしていた。
その男には足音や呼吸音などの行動音が全くせず、近づいて来ても全く気配を感じなかった。その男は目の前にいるはずなのにここから遠くの別の世界に存在しているかのようであった。
でも声は聞こえる、キナンカの声はその男が発していた。この男がキナンカ自身だと理解した。
「・・・・・」
でもメギドラは何も言わなかった、何も反応しなかった。表情も変えず、ただうずくまってキナンカの話を聞いているだけだった。
「なぁ何とか言えよ、今まで姿が見えなかった俺の感想でも、さっきの俺の話に対する反論でもよ。何かしら話してくれないと俺でも悲しくなるぞ」
「・・・・・」
「あーあーキナンカ悲しいなー、メギドラが話してくれないと悲しいなー」
「・・・・・」
「ハァ~~~~~、強欲にも全て失いたくないと思い、傲慢にもそれを守れる力があると思い込み、失ったら憤怒にも暴れまわり、暴食に喰らいまわった。そして一旦落ち着いたら怠惰にももう進めなくなって俺の言うことに言い返すこともできなくなった。よかったなこれで5つ、あと2つでコンプリートだ」
こんなにも貶されているというのに、メギドラは何も言い返すことはなかった。
ずっとだんまりで話を聞いている。いや、もはや聞いているのかも不確かな様子であった。
「なぁメギドラ、ここはお前の中、お前が何を思っているのかも大体分かる。恩人が自分のことを庇って死んだ喪失感、怒り狂って暴走して元同族を己の手で殺した罪悪感、己の弱さを嘆く絶望感。そして化け物だと思っていた自分に暴走するような感情があったという安心感、こんなこと安心感を覚えてしまった己への失望感・・って所だな。色んな感情がぐちゃぐちゃになって、心が混濁しているんだろうな」
「・・・黙れ」
数刻流れた後、遂にメギドラが口を開いた。
その言葉に強さはなく、負け犬の遠吠えのように弱々しく、覇気のない言葉であった。
キナンカは嗤った、嘲るように嗤った。今まで見たことのないメギドラの姿を見て滑稽であるかのように嗤った。
「完全に図星なんだろうなぁ、何せここはお前の中、隠し事は不可能、痛いところは簡単に突かれるんだから。まぁ、お前がそう言うならこれ以上はどうこうするつもりはない。だが最後に偉大なる俺から簡単なアドバイスだ・・・教えを忘れるな。これを心に留めて理解しろ。んでしばらくここには来るな。以上だ」
それを言い終えるとキナンカは蠟燭の灯が尽きるように、一瞬にして陽炎となって消えてしまった。
それから流れたのは数秒か数分か数時間か、あるいは数日の時間が過ぎたか、太陽の見えないこの空間ではまともな時間感覚がなく、具体的な時間がよく分からない長い時間が過ぎた後、ゴォーンと重く響く鐘の音が響き渡った。
かすかな光が一番星のように輝き、静かに広がり始めて暗闇を照らし出した。太陽のように照らし出していたいつもの照らし方とは違い、光の糸が暗闇を縫い、縫い目によって闇が埋め尽くされるような形で光に包まれた。
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「ん・・・あぁ・・」
ゆっくりと目を開くといつも眠っていた天井が目に入った。でもいつもの視界とは違う。視界の右半分は黒く染まり、いつも見えてきた景色の半分程度しか見えていなかった。
肉体は鉛のように重く、いつものように素早く動かせない。また、ゆっくりでも僅かに動かすだけで腹や腕に痛みが走った。まだ怪我は治っていないようだ。
「メギドラ!!」
次に聞こえたのはメギドラを呼ぶ声、周りのことなど考えず、慌てて大声で叫ぶ声であった。
寝覚めのその大声は耳に響き、頭を軋ませる。普通ならば嫌に感じるそれも、その声ならば心地よく感じた。
ゆっくりと横に目線を移し、その声の主の姿を見る。傷だらけの手を優しく温かい両手で包み込み、今にも泣きだしそうに顔を赤らめるその少女に少し微笑みながら言葉を返した。
「・・・セシリア」
その声で聞き、彼女の胸の奥に溜まったものが、堰を切ったように押し寄せてきた。
頬を伝う一筋の涙が静かに掌を濡らし、次第にその一筋が二筋となり、止めどなく溢れ出していく。
言葉にならない思いが喉の奥で詰まり、嗚咽を漏らした。
メギドラはそんなになるほど心配させたのだと、再び自身の心に刻んだ。
「すまんセシリア、随分と心配かけたみたいだ」
彼女は口を結んでどうにか涙を止めようとしていたが、一向に止む気配はなく、小刻みに身体を震わせていた。
メギドラは無意識のうちに彼女に手を伸ばしていた。指先が彼女の艶やかでありながら少し荒れた髪に触れると、彼女は少しだけ震えが収まったように感じた。
静かに優しく彼女の頭を撫でた。メギドラ自身の手が温かいのか冷たいのか分からないが、温もりを込めるように優しく撫でた。手のひらが彼女の髪を滑るたび、彼女の震えは少しずつ収まり、声も小さくなっていたが、まだ止まる気配はしていなかった。
今は彼女が落ち着くまで、彼女の傍にいれる。メギドラは子どもを泣き止ませるように優しく頭を撫で続けた。
「───起きたか、メギドラ」
数刻経つと部屋の扉が開き、外からラーノルドと共に青い蛇が頭を覗かせていた。
その手には色とりどりのフルーツが入った籠が握られていた。
「5日、5日だ。お前は5日も眠ってたんだ。セシリアがずっと傍に居てくれて、ずっと心配かけてたんだぞ」
「・・・ええ、分かってます・・・重々分かってます・・・ところで、他の皆は?」
メギドラがそう聞くとラーノルドは目を見開き、顔を引きつって僅かに仰け反った。
それでも結果は伝えなくてはならないと、長い時間を置いて答えた。
「ヴィドルとベスティアは、今買い出しに行ってくれてる。ヅィギィアさんは・・お前も分かってるだろう。アルマとヤトは・・・俺たちを逃がすために・・・」
ラーノルドが全て言い終わる前に「もういいです」というメギドラの言葉が遮った。
ここまで言ったのならどうなったかは理解している。それでもメギドラは暗い表情、悲しい表情ひとつせず真っ直ぐに見つめていた。
「ヅィギィアさんは?」
「・・・葬儀は短く恙なく行われた。既に火葬もされて、墓で眠ってる。本当はお前が起きるのを待ちたかったんだが・・・」
「分かってます。竜の遺体、それも高い階級の竜の遺体は利用される可能性がある。だから早めに火葬して・・・言い方は悪いが処理しなくてはいけない。ちゃんと習ってますから、分かってます・・・場所はどこですか?せめて、墓参りくらいは」
ラーノルドは余計なことは何も言わず「桜の霊園、案内は?」と聞いてきた。メギドラは「大丈夫です」と短く返し、見舞い用兼墓参り用のフルーツ籠と小さな花束を受け取り、部屋を飛び出した。
他にも言いたいことはあっただろうに、察して何も言わないでくれたラーノルドに心の中で感謝しながら。
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桜の霊園、それはこれまで国を守るために戦い、戦死していった英雄たちを弔うための場所。
竜帝国の毘沙門街と呼ばれる海へ続く街道町のすぐ近くにあり、桜の霊園はこの街道町の住民が管理している。
一本の巨大な桜の木が聳え立ち、それを囲うように墓が建てられ、いつの間にかその場所が桜の霊園と呼ばれるようになった。
桜の名は千年桜。メギドラは詳しいことについては知らないが、1年のうち決まった30日間のみ花を咲かせる桜であり、竜帝国にとってはかなり特別な桜であるらしい。
樹齢は丁度1000年で枯れ落ち、その場から再び芽を出していく。ほぼ永遠に無くなることのない桜であるらしい。
そんな桜が聳え立つこの霊園に、ヅィギィアもここに眠っているのだ。
「話には聞いてたけど、想像以上に綺麗な場所だな。桜も満開、こんなに綺麗な花があるのか」
ダリアやマリーゴールド、ラナンキュラスのような花びらの多い花を描くように墓が建ち並び、水輪を描くように綺麗に円形に揃っている墓の中を探す。
ヅィギィアの名が刻まれた墓があるのは中央の桜から少し離れた位置にある。他の墓に比べて多くの花束が添えられており、遠目から見ても目立つのですぐに分かった。
その花束の量を見ればヅィギィアがどれほど慕われていたのかが見て取れる。
今は運良く墓参りに来ている者は誰もおらず、隠れたり周りの目を気にしたりする必要はなかった。
「ここか・・・ヅィギィアさんの墓」
ヅィギィアの墓の前に座り込み、花畑のような花束の山を少し増やし、フルーツ籠を隣に置いた。
ゆっくりと目を閉じ、静かに手を合わせた。
メギドラの生涯の中では僅かな短い時間であったが、ヅィギィアの遊撃隊と過ごした時間はとても濃密なものであった。
そんな濃密な思い出を思い出しながら、言葉を吐いた。
「・・・ヅィギィアさん・・本当に・・ごめんなさい・・ごめんなさいッ」
整理のできていない気持ちの中、最初に出てきた言葉は謝罪であった。
かすれた声で詫び、涙があふれてくる。とめどなく溢れる涙を拭うことなくメギドラは言葉を吐いた。
「俺がッ!!・・・俺のせいで、俺を庇ったせいでッ!!」
ヅィギィアは死んでもメギドラを責めないだろう。詫びることも、メギドラがこんなことになっているのもの望んでいないだろう。
それでもメギドラは詫びることを止めなかった。
「俺が弱かったせいでッ!俺が甘かったせいでッ!俺が人間を殺せなかった。殺すチャンスはいっぱいあったのに、俺が弱くてできなかった!!」
メギドラは自分を責める言葉を続けた。
「アルマさんもヤトさんも犠牲にならなくて済んだッ!俺がもっと強かったら・・・皆、もうこんな辛い思いはしなくて済んだんだ!!嫌だよ・・・こんなこと、これからいっぱい起きるんなら・・・俺はもう戦えない・・・」
静寂の中に、弱々しい男の嗚咽だけが響いていた。
冷たい風が吹き抜け、静かだった桜の木がその風に身を委ねるように枝を揺らした。
ひらりひらりとピンクと白の淡い色が風に乗り、過ぎ去る者たちを象徴するかのように遠くへと飛んで行ってしまう。
ふとその色に目を奪われ、僅かに視界を上に上げ、後ろを振り向いた。
さっきまでは桜の木の影に隠れてよく見えていなかったが、振り向いたらその竜の影が目に入った。
「・・・いつから見てた?・・・ヴィドル・・・」
その影の竜は紫色の天竜ヴィドル、メギドラを見つめるその表情は失望感を露にしていた。
目に光がなく、僅かに怒りの感情があるように見える。
今のメギドラにはそのことを感じ取れるほどの冷静さはないのだが。
それでも弱いところを隠すように、冷静を装おうと、無理やり涙を引っ込め、声が震えないように喋ろうとしていたが、そんなこと今のメギドラにはできなかった。
「用がないなら・・・どっか行ってくれ」
無言でメギドラを見つめるヴィドルにそう吐き捨てる。
静かな風の音と、サラサラと揺れる木々の音が聞こえた後、ゆっくりとヴィドルは口を開いた。
「それでお前を独りにしたら、またお前は“自分が弱かったから”って自分を責めるんだろ。他の場所でやるんならいいが、そんな情けねぇ姿をヅィギィアさんの墓前でずっとさせるわけないだろ」
「・・・・・」
「俺がもっと強かったら・・か。傲慢だな」
「あぁ?」
精神世界でキナンカに言われた言葉と重なり、その言葉に反応してしまう。
だがヴィドルはメギドラの言葉を待つ前に矢継ぎ早に言葉を続けた。
「俺が俺がって、ちょっと前まで戦闘経験なし、飛行することもできない、逆鱗の練度もまだまだ低いのに、何自分が強くなったみたいに考えてんだ。確かに暴走という偶然がありながらも、お前が中央聖騎士団を二人倒したことは事実で、それは変わることない結果だ。だからな───」
ヴィドルはじゃりじゃりと大地を踏みしめ、ずかずかと歩みを進めてくる。
メギドラに手を伸ばし、彼の胸ぐらを掴んで持ち上げ、吠え轟いた。
「───ヅィギィアさんが死んだのも変わらない結果だ!お前がもっと強かったらなんて言うもしものことを言おうがそれはただの言い訳で死者を冒涜する行為でしかない!そんなんじゃヅィギィアさんが安心してあの世に行けないだろうが!」
ヴィドルに持ち上げられたメギドラはただうめき声を上げるだけで何も言い返すことはなかった。
胸ぐらを掴むヴィドルの腕を弱々しく握るその手は冷たく、されるがままに受け入れるだけであった。
「・・・ここはヅィギィアさんの墓前だ。墓前で話すんなら・・・お前がこれからどうするか、どうなりたいかを話せよ。その方が・・・ヅィギィアさんのためになるだろ」
ヴィドルはメギドラを手放し、メギドラは力なく地面に座り込んだ。
墓を見つめるヴィドルの視線は、心なしか墓そのものではなく、墓の少し上、少し後方を見ているような気がした。
「・・・これからどうするか・・・どうなりたいのか・・・」
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メギドラは生前ヅィギィアが生きていたときに話していた内容を思い出していた。
時間はセシリアを救出して少し後のこと。
「ヅィギィアさん。竜たちで軍を作って屠竜監獄に殴り込みに行って、捕まってる竜たちを解放することはできないんですか?」
そう言われたヅィギィアは少し考えたような素振りを見せ、少し表情を暗く、それでいて憐れむように少し微笑んで答えた。
「う~んそうだね・・・メギドラが今言ったことは・・・もうやってるんだ」
「えっ?」と声を漏らすメギドラの目を見て、ヅィギィアは続けた。
「今から何十年も前、当時の元帥級の竜の方々が団結して軍を編成した。屠竜監獄を襲撃するための軍を。戦力は相当なもので、申し分ないと自信を持って言えるほど戦力だった。実際に屠竜監獄を落とせるだけの戦力はあった。でも、結果は散々なものだった。ほんの一部だけ竜たちを解放することはできても、それ以上に捕まった者たちは多かった。その上、その行為に怒った人間たちから、後日同胞の死体が送られてきた。必要以上の傷痕がついた死体がね」
ヅィギィアは続けた。
「そこからもう屠竜監獄に攻め入って同胞たちを解放しようなんて言う者はいなくなった。巨像に囚われている者たちを解放して皆を解放しようという動きになった。家族や友人が捕まっている者たちもそうやって納得しようとしているんだ」
「・・・なんですそれ、そんなことしたって、大切な者たちが戻ってくる保証はないし、一回の失敗で諦めるなんて───」
「分かってる。皆そのくらい分かってる。でも無理なんだ。失敗したときのリスクが大きすぎるんだ。感情では助けに行きたい。でも思考は行っては大惨事になると思っている。こういうときに感情と思考が一致しないことは少なくないからね」
ヅィギィアが言い終えた後、辺りに静寂が流れた。風は凪ぎ、生物の音も聞こえない。
「でも───」
ふわりと空気が動いた。
「あるんだ。もう一度屠竜監獄に攻め込む方法」
遠くの木々がさざめき、小さな木の葉がひとつ、空へ舞い上がる。
メギドラが「どんな?」と聞き返すと風が強まり、花びらが静かに踊りながら飛んでいく。
「竜帝になることだ。竜帝になれば、竜帝国の全てを得ることができる。下の階級の竜たちで再び軍を作れる。名は竜帝軍、竜帝軍を指揮して、再び屠竜監獄に攻め入ること、それが今唯一、屠竜監獄に攻め入る方法だ。メギドラは目指すかい?竜帝を」
「冗談言わないでください、俺はまだここで生きていくだけで精一杯なんですよ?そんなもの目指せる余力もないし、数千年も竜帝は現れていないんでしょう?その上、元人間が竜帝なんて、ヅィギィアさんにならともかく認められないでしょう」
「・・・私はいいと思うけどね、メギドラが竜帝ってのも・・・茨の道だけどね」
最後の言葉は、メギドラの耳には聞こえない程小さな声で、風にかき消されたが。
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「───ここで目指すものか・・・本当にずるいなぁヅィギィアさんは。あんな風に発破掛けられて、少し考えてたらそれが思い浮かぶことになってしまう・・・あなたに言われたら、何故かできるかもしれないと思えてしまう」
天を仰ぎ、静かに息を整えた。
迷いはある。これでいいのか、この道を進んでいいのか、間違いはないか。そんな雑念が湧いてくる。
それでも目指したいと思ったものは変えたくない。やりたいことを果たすにはこの道を進む必要がある時点で止める選択肢もない。
それでも迷いは拭えない。
「・・・なぁヴィドル。俺に出来ると思うか?俺みたいな未熟者でも努力すれば不可能と言われたことでも実現出来ると思うか?」
「は?」
何を言いたいのか分からないメギドラの言葉にヴィドルは困惑の表情を浮かべていた。
「何を言いたいのか分からないが、できるんじゃないか?いつか分からないほどの昔の強い方の“竜の成長に限界は存在しない”なんて言葉が今でも残っているくらいだしな」
「そうか───ヅィギィアさん・・それとついでにヴィドル・・・ここで目指すものが決まりました」
ヅィギィアの墓を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「───竜帝。竜帝を目指します。ヅィギィアさん、あなたに言われたからやるんじゃなくて、俺がなりたいから目指すんです。多分元人間が──とか、未熟者が──とか言われると思う。数千年も現れていないそれに俺が目指すのは茨の道で、きっと死にたくなるほど苦しいものだと思う。けど、俺が皆に恩を返すにはそうやるしかない。命を助けられた恩を、認めてくれた恩を、皆に返す。今遠くで苦しんでいる奴らも俺が助ける。いつかきっと実現させる。だから、それまで見守っていてください」
言葉を残し、踵を返して一歩踏み出した。もう迷いはない。




