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ドラゴンブラッド  作者: カシワデ
竜人領生活編
20/25

20話 “暴走メギドラ”

屠竜剣(とりょうけん)『グラム』の破片をメギドラは自身の掌に突き刺した。

その瞬間、メギドラの心の奥底から、怒り、悲しみ、憎しみ、苦しみなど、様々な負の感情が湧き上がってきた。

今まで決して湧くことはなく、自身が心のない化け物だと思っていたのに、心の中、頭の中がその感情でいっぱいになってきた。


「メギドラ───いったい何を!?」


周りのメギドラを見る目は困惑、戸惑いなどの驚愕の感情。

当たり前だ。メギドラは今逆鱗“竜の血(ドラゴンブラッド)”の力で生きている。『グラム』はその逆鱗の力を乱し、打消し、使えなくさせる力がある。

メギドラはそれが分かっている。他の者たちは分かっているということをちゃんと分かっている。だからこそ、メギドラがそんな行動をしたことを驚愕しているのだ。


メギドラの潰れた右目部分、ラビアスに攻撃された横腹、そこからどんどんと血が流れていく。

まるでギリギリでせき止めていたダムが遂に決壊したかのように、滝のように血が溢れだしていく。脳へ送っていた血液も、これで通常通りの量しか流れなくなる。

また、『グラム』を刺すと同時に枯れ果てていた涙も左目から滝のように流れてきた。


「あぁ・・あぁぁ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


まるで泣くような叫び声を上げた。今まで押さえつけていた感情を一気に解放するように、全身から血、涙、汗を流しながら叫び続ける。

音圧が衝撃波となって肉体を削った。

やがて掌に突き刺さった『グラム』は音圧によって外れ、溢れ出てくる血液が天使の輪のように集まり、獣のように四足歩行に構えた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


目は紅く黒く染まり、瞳孔は金色に見えた。まるでメギドラ自身の怒りや狂気を映し出したようだった。

筋肉が肥大化し。皮膚には血管が浮き上がっているのが見えた。

流れる血液の一つ一つが翼の付いた蛇のような見た目をし、それら一匹一匹が人間に向かって吠えていた。

思考を溢れ出る負の感情が塗りつぶし、どんどんと理性がなくなってくる。意識も、無我夢中という自身の世界へと沈んでいった。


「っ!!───暴走か!?」


そんな様子のメギドラを見て、残っている中央聖騎士団の者たちは苦虫を嚙み潰したような顔になってそう呟いた。

今までヅィギィアを警戒していたものがメギドラの方にシフトしたように、周りの中央聖騎士団や兵士たちはメギドラ一体に武器を向けていた。


「メギドラ!!」


遠くからメギドラを呼ぶ声が聞こえるが、その声は届かない。届いていても、彼はもう止まらない。

メギドラはセシリアを巻き込まないように数歩、ゆらゆらと左右によろめきながら大地を踏みしめた後、一瞬の内に消え去った。ただ一つ、大地を裂き、抉った足跡を残して。


「消え───」


皆がメギドラを見失ったその次の瞬間、兵士団の中で叫び声が響き、中心から血の噴水が湧きあがっているのが見えた。


「え?」


兵士団の中にたった独り背を向けて立っている赤い竜の姿が見えた。

その周辺には、文字通り体に風穴が空いた兵士たちがいた。その兵士たちから血の噴水が湧き上がっている。


「え・・え?・・ぁ・・」


メギドラからは、クチュクチュバリバリと、肉が切れる音が、骨が砕けていく音が響いていた。彼の手の中に入っている肉塊、口の周りに真っ赤な液体がくっついているのを見れば、彼が何をしているのかは分かるだろう。


「ぁぁぁ・・」


人間たちはさっきから全ての反応が遅れている。メギドラの動きが速いこと、やっている行動が想像だにしないものであることが原因で、思考も行動もできていないのだろう。

ヅィギィアを斃して気が緩んでいるということもあるのだろうが。


人間たちの前に立つ彼の目は、冷たかった。周りの人間を塵と思っているかのような目だ。だがその瞳の奥には燃え盛る怒りが見えた。

その目を見たものは全身にぞわぞわとした寒気がした。ヅィギィアのような死への恐怖ではなく、目の前のメギドラが正体不明であること、何なのか分からない、未知からくる不気味さを感じ取ったからだろう。中央聖騎士団のような強者でなくとも、それは感じ取れる。だからこそ凶悪なのだろうが。


「ォォォォォォォォォォォォ・・」


メギドラからはトンネルの壁に風が響くような不気味な音が常に鳴り、不気味さを際立たせている。


「お前たち!何をやっている!速く()()()!」


音波のような風圧のバミスコールの声が響いた。その声は動けていなかった兵士団全員を現実に引き戻した。

だがその命令は「戦え」ではなく「逃げろ」だ。

ヅィギィアに対しては戦えだったのに、暴走メギドラ相手には逃げろなのだ。


「“錨剣(アンカーブレイド)”!!」


バミスコールは兵士たちが逃げるのを助けるかの如くアンカーを投げつけてくる。ヅィギィアですら躱す選択をしたその攻撃だが、メギドラはそのアンカーを片手で軽々と受け止めた。


「・・・はぁ!?」


メギドラは掴んだアンカーを己の血で固めた。バミスコールの鎖は限界まで伸びきっているため、完全に綱引きの状態となっている。

だが、バミスコールがいくら引いても動くことはなかった。アンカーを軽々と扱えるバミスコールの力は相当なものだ。だというのに、暴走メギドラには全く敵うことがなかった。

メギドラはクイッ!と軽い動きで引っ張った。それだけの簡単な動きでもバミスコールにとっては相当な力で引かれており、彼の体はバランスを失い、宙に舞い上がった。


「うおぉぉッ!!」


彼の視界は一瞬で上下逆転し、風が耳元で渦巻き唸った。体が大きく浮き上がり、内臓が浮いて動く感覚に襲われながらも、冷静に対応しようとした。ただ鎖から手を離すだけ、それだけでどうにかなるはずだった。

だが───


(ッ!?手が・・離れない!?)


バミスコールの手は、血で作られた縄によって鎖に括りつけられていた。また、手には血がこべりついており、それが接着剤となって手を離れなれないようにされていた。


(ま・・まずい・・)


彼の視界の先には左手でアンカーを受け止め、右手に固く握り拳を作っている暴走メギドラの姿があった。

それもいつも通りの拳の攻撃“竜拳殴牙(ドラゴンアサルト)”ではなく、拳に真っ赤な血を纏い、パキパキと音を立てて硬化している拳が見えた。

純粋なメギドラのパンチ力に加えて、硬化した血液の強度向上。それに加算して今は暴走した力がある。

“竜拳殴牙”の上位技、今の状態で名は無い技だが、後にメギドラはこう命名する。“赤竜拳殴牙(レッドアサルト)”と。





ーーーーーーーーーーーーーーーー





竜は何らかのトリガーがあると自我を失って暴れてしまう。トリガーは今のメギドラのように急性のストレスなどによる超急激な感情の起伏、肉体が限界に達したときの肉体の防衛反応の大きく分けて二つの種類がある。

簡単に言えば肉体か精神に多大なダメージが入ったときに暴走するのだ。


暴走は竜でも分かっていないことが多い、なぜ竜は暴走するのか、それは何のためにあるのか、なぜ自我を失うのか、など。

竜の中には暴走を克服した者も存在するが、それに関しても分からないことが多すぎて謎は深まるだけだった。

今分かっている数少ない情報は、暴走は竜が普段抑えている力を解放するということ。

自我を失う代わりに限界以上に力を引き出すため、その竜が出せる120パーセント以上の力を発揮することができる。

潜在能力すら発揮するため、例え現在の力が戦士級程度の力しかなくとも、暴走状態では元帥級以上の実力を発揮することがあるのだ。

だから人間たちは暴走した竜に相対した場合、逃げる選択を取るようにしている。

もし戦ってしまった場合───


「ぅ・・ぅぅぅ・・・」


今のバミスコールのようにただの呻き声を上げるだけの肉塊になるのがオチだ。


「ォォォォォォォォォォォォ・・」


メギドラはそんなバミスコール自身にはまったく興味を示さず、彼の血肉を喰らいながら、倒れた中央聖騎士団を見て撤退行動をする兵士たちを見つめていた。

不気味な風の音は、未だ鳴りやむことはなかった。


メギドラは暴走状態になってから“竜血栓(ブラッドクロット)”を使っていない。つまり腹部からも右目からも血が垂れ流しになっているグロテスクな状態だ。

人間を喰らったのも、足りない血を補給するための本能的な行動でしかない。

暴走したメギドラには、周りにいる人間が活きのいい獲物にしか見えていないだろう。


「・・・・・」


耳に響く不気味な風の音が一瞬鳴り止むと、メギドラは再び姿を消した。

再びその場に大地を抉った足跡が残っている。

ただそれだけで彼が大地を蹴って移動したのだと分かるが、彼の動きは速すぎて高速移動というより、ほぼ瞬間移動と言えるような動きだった。


次の狙いは中央聖騎士団 第12騎士 ウィルヴィト・ウィンターキル。

約100メートル先へ、メギドラは一直線に彼女の元へと向かっていく。彼女は兵士たちの後ろで殿を務め、メギドラが攻撃しようと向かっていることを分かっていた。

メギドラはナイフのように手刀を固め、一直線に手を伸ばした。

まるで刃物のように鋭い爪が光に反射して輝き、空気を切り裂く音が響きながら進んでいく。

100メートルあった距離も今のメギドラには僅か数秒で移動できる。一直線だから動きは分かるが、素早すぎて残像が見える速さだった。


「・・・ッ!」


ウィルヴィトは静かに息を整え、足を肩幅より少し大きく開いて地面に立った。

警棒を右手で正面に持ち、左手は右手の30センチ程上で開手で構えて意識を集中させた。

猛牛の如き動きで進むメギドラに彼女は臆することなく相対していた。


一瞬、彼女の覚悟が決まったその一瞬後、メギドラは彼女の目と鼻の先にまで到達していた。

メギドラの爪が彼女の左手に触れた瞬間、彼女の肌の感触を感じ取った。

彼女の肌はまるで半液体のように柔らかく、手応えが薄かった。それでもメギドラの爪は鋭い竜の爪だ。そして半液体のような彼女の肌でも、血が流れている生物の肉体だ。

ウィルヴィトの左手にメギドラの爪が突き刺さり、血が溢れだしていく。


そのままウィルヴィトも他の兵士たちと同じように肉体を抉り取られ、何もできないまま喰われてしまう───

そう思った次の瞬間、真っ直ぐに進んできたメギドラが後方に大きく吹き飛んだ。


「??ォォォォォォォォォォォォ・・?」


メギドラは一瞬で立ち上がったが、今のメギドラには何が起きたのか理解が出来なかった。

周りから見れば簡単に分かるが、暴走状態で思考が負の感情で埋め尽くされているメギドラには分からなかった。


ウィルヴィトがやったのは合気道。

真っ直ぐに迫ってきたメギドラの攻撃に対応して僅かに体を捻り軌道を逸らす。そのままその力を円や曲線を描くように旋回させて自分の力を上乗せして返しただけにすぎない。

達人のような完璧な合気は彼女にはできない。だが、彼女の星誕の能力にプラスして、メギドラの単調な動きがあってこそ簡単に対応することができたのだ。


「竜人の暴走は確かに脅威。身体能力は決して敵わないし、真っ向から戦おうとしたら陛下でもないと絶対に勝てない。それでも暴走にだって弱点はある。視界が狭くなって動きが単調なら、いくら身体能力が強くても対応できる・・・」


暴走は驚異的な力で、警戒するべき力だ。だが無敵の力ではない。必要以上に恐れる必要はなく、冷静に思考できれば対応策を見つけることはできる。


「その上・・・見えてない・・・なら───」


今のメギドラは自分と敵のことしか分かっていなかった。否、認識していなかった。

周りの竜の姿も見えず、声も聞こえず、どこにいるのかも認識していなかった。

見えているのは人間だけ。だから───暴走メギドラには対応できないのだ。敵だと認識できない()()には。


メギドラの姿が一瞬で暗くなった。

差していた光が差し込まなくなり、メギドラの姿に影が落ちる。

周りから見えている者にはその影の正体が何か分かる。巨像だ。

巨像はその両の足で轟音と風圧を起こしながら飛び上がっていた。


相手を殺さまいと戦う竜の戦い方では巨像の動きを完全に止めるというのは不可能であった。ましてや巨像と戦っていたのはラーノルドたった一名のみ、それだけの戦力で超巨大かつ超高質量の巨像を止めるには戦力不足であった。むしろよくこれまで止められていたものだった。


巨像は敵ではなく、救うべき対象。それを肉体に刻み込んだからこそ、巨像を敵だと思えず、暴走メギドラには巨像を認識することができなかったのだ。

認識できない相手からの攻撃は、どれだけ強い者でも簡単には対応できない。

メギドラは天から落ちてくるミノタウロスの巨像の武器、巨石の棍棒によって彼の体は潰された。

まるで人に潰される蟻のように、彼の体は巨大な巨像の攻撃によって潰された。

ぐしゃりとメギドラが人肉を喰らったときと同じような音が鳴り、血が飛び散った。


「・・・上げて」


ウィルヴィトがそう言うとミノタウロスの巨像はゆっくりとその棍棒を持ち上げ、慎重に中の様子を伺った。

そこにはうつ伏せになって倒れるメギドラがいた。

人間の体では潰されて即死だったろうが、丈夫な竜の体ではその肉体は形を保てていた。

しかし人間が即死するレベルの攻撃は、いくら竜でも無事で済むわけがなく、肉体のあちこちから血が噴き出していた。特に右目と横腹から出てくる血の量はえげつないと称せるほど多く、巨石の棍棒からはみ出していた血はそこから出ていたものであった。


メギドラにはまだほんの僅か呼吸があり、よく見ても分からないくらい小さくメギドラの体は上下しており、他の人間の兵士たちは倒したと思って安心を顔に出したが、ウィルヴィトはまだ殺せていないということを理解していたため、警棒の先を向けながらゆっくりと近づいてきた。

まるで殺した虫に触れないように確認するかのように、ウィルヴィトはメギドラの体を軽く警棒で突っついた。

まだ動けるなら再び暴れだしてしまうだろうが、メギドラの肉体が動くことはなかった。

もうメギドラに戦う力は残っていないようであった。


「・・・そこの一般兵───この竜人を連行しなさい」


ウィルヴィトは近くにいた兵士数名を呼び、そう指令を出し、その兵士たちは腰に装着されていた手錠や鎖などの拘束具を取り外し、メギドラに近づいた。

その瞬間───


「“霊炎檻(れいえんかん)”」


そう声が聞こえると、倒れたメギドラを囲い、牢に閉じ込めるかのように霊炎の柱が立ち上り、メギドラに触れようとした兵士たちに炎が引火し、手袋を焼いて肌を焦がした。


「なッ!?熱ッ!」


兵士たちは反射的に伸ばした手を引っ込め、炎に焼かれなかった兵士も捕らえるために炎に手を伸ばすこともできなかった。また、ミノタウロスの巨像も指示無く動くことができず、燃え上がる火柱を見つめたままピクリとも動かない。

その作り出した隙を、竜は刈り取る。


「“愛袖鮫(ラブカフリル)”」


まるで波のようにウェーブがかった緑色の軌跡が霊炎の火柱の間をするりと潜り抜け、瞬く間にメギドラのことを回収していった。


「・・・すまないメギドラ、俺たちが弱いばかりに・・・お前とヅィギィアさんに・・・・・随分と苦しい思いをさせた・・・暴走に至るまで・・」


メギドラを助けてくれたのはラーノルドだ。肉体は所々怪我をし、頭や腹、腕などから血がぽたぽたと垂れてきているが、メギドラの怪我に比べたら微々たるものであった。

彼は剣を持たない左腕でメギドラを抱え、肉体に巻いている青い蛇が頭を支えていた。


「ラーノルドさん、セシリアちゃんも保護しました」


ベスティアがセシリアを負ぶり、その周りを獅子や熊が守っていた。

あちらこちらで戦っていたアルマやヤトも集まり、竜側が全員集合することになった。

だが、集合するということは、無論囲いやすいということ。

集まる竜側数名に対し、中央聖騎士団のガガエ・テレリとウィルヴィト・ウィンターキル。ミノタウロスの巨像に兵士たちは未だ百名以上残っていた。

その上───


「・・・前線からも戻ってきましたね・・どうしますか?」


早めに後方に戻ってきた中央聖騎士団と同じように、このピンチな状況で人間の兵士たちが前線から戻ってきた。

数は元々いた総数に比べたら少ないが、それでもざっと百名以上が戻ってきていた。

締めて倍の数、二百名程の人間たちが竜のことを囲っていた。

既にダウンした中央聖騎士団のラビアス・バーミリオン、バミスコール・ベスターナ、シェルル・シューラの三名は回収されており、命を奪えているかは不確定であった。


(───というより、どうやってここから巻き返すか・・撤退するか・・明らか後者しか選択肢はない。じゃあどうやって逃げる?脱出口は空しかない、としてもすぐに逃げるのは無理だろう、運んでる状態で攻撃を喰らったらただじゃ済まない。時間をかけて頭数を減らしていけば突破口は開けるかもだが、それまで全員が無事でいる保証はない。時間をかけすぎたら、メギドラが出血多量で死んでしまう!どうする?どうすれば?こんなときヅィギィアさんだったら?)


どれだけ思考しても最適解は出てこない。

どれを捨てて何を守るのか。優先順位の格付けがまだ出来ていなかった。

表情は冷静を装うとしているが、冷や汗が流れ、表情も崩れかかっているため、誰の眼にも焦っていることが伝わっていた。


「ラーノルドさん」


その声と共にポンと両肩に温かい手が置かれた感覚がした。その手の先にいたのはアルマとヤトの二名、どちらも冷静で、覚悟が決まったかのような顔をしていた。


「みんな連れて・・早く離脱してください」


「・・・は?」


ラーノルドは彼らが何を言っているのか理解出来なかった。ラーノルドだけではない、ヴィドルもベスティアも、何を言っているのか理解出来ていないようであった。

アルマとヤトは至極当たり前のことを言っているような顔をしている。


(何で───)


「“何でそんな顔ができるんだ?”ですって~?」


いつものアルマのようにニコニコした笑みを浮かべながら話す。いつものヤトのように冷静に話す。

ラーノルドが何か話そうとしてもアルマは心を読んで話す隙を与えなかった。


「この子たちは未来です。ヅィギィアさん亡き今僕らのリーダーはあなたです」


「リーダーのラーノルドさんは未来を正しく導かないといけないんです。ってことは、殿(しんがり)をやれるのはこの中でボクたちだけです~」


アルマとヤトは殿を務めるのが自分たちであるのが至極当然のように話す。それは他のどんな話し方よりも恐ろしかった。


「でも───」


言い切る前に、彼らの言葉がそれを遮った。


「「行け」」


脅迫とも言えるその言葉は、瞬く間に説得の言葉黙らせた。

ここで言葉を発してしまえば、きっと彼らの覚悟を踏みにじることになってしまうから。


ラーノルドは黙って翼を広げる。

それを見たヴィドルとベスティアもそれに合わせて翼を広げた。


「・・・頼んだぞ」


「こちらこそ」


そう短く言葉を残した。

三名は地面を強く蹴りつけ、全身の力を瞬間的に解き放った。

体が空中に舞い上がり、大空へと飛び上がる。


「逃がすと思う?」


下からそんな声が聞こえる。

ただそれを遮るように、頼もしい男たちの声が聞こえてきた。


「“呪々祟々(じゅじゅすいすい)”」

「ボクらの目があるのに、追わせると思う?」


飛び立ってからは、彼らは一切後ろを振り向かなかった。

まるで地震のような地鳴りの音、金属や石を切り裂く不協和音、そして耳の奥にまで響いてくる悲鳴や叫び声。

それが聞こえなくなるほど遠くの距離へと移動しても、彼らの頭の中で長く長く響き続けるのであった。

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