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ドラゴンブラッド  作者: カシワデ
竜人領生活編
17/25

17話 “通貫”

メギドラの“竜拳殴牙(ドラゴンアサルト)”を喰らったシェルルはその威力、勢いのままで数メートル後ろに吹き飛んだ。

石の手は砕け、ガードに使ったシェルルの腕は曲がった鉄筋のようにあらぬ方向に曲がり、見るも無残な状態となっていた。ガードなしで喰らえば首が飛んでいたと思える程の威力。微かに息をしているが瀕死であることは間違いないだろう。もうこの戦いでは役に立たない。


「・・・止めを刺さないと」


瀕死のシェルルに止めを刺そうと一歩踏み込んだ瞬間───パンッ!!と何かが破裂したような音が聞こえた。


「え?あれ?」


右目が見えない。さっきまでシェルルの神経すら捉えていた目が見えなかった。左目を開けば見える。

それで理解した。何が起きたのかを。気にしていなかった痛みが酷く感じていく。


「結膜下出血の最上級みたいなものか・・・破裂したのは血管じゃなくて、眼球だけど」


メギドラの“赤竜血集(コンセントレート)”“赤星視狂(ヴィジョンブースト)”は眼球に血液を集中させて効果を限界まで上げる技。

大量に血液を眼に送るため、瞬間的に莫大な血圧がかかる。負荷なく“赤星視狂”を行うためには逆鱗を精密に使い、血を上手に操る必要がある。

それができるほどメギドラの逆鱗の練度は高くない。力の調節を失敗すれば細胞や器官は圧力によって破壊されてしまう。これまで破壊されずに上手くいっていたのは戦闘によるアドレナリンの分泌、超集中などにプラスしてビギナーズラックも合わせてこれまで辛うじて上手くいっていただけ、本来はすぐにこうなってでも仕方がない状態であった。


「腕もギリギリ、抑えなかったら筋肉が裂けてただろうな・・・まだ動くから、十分だ、止めと巨像の相手くらいは」


シェルルとの戦闘で見えていなかったが、人間の兵士たちもその数を減らしていた。元々三百人ほどいた人間も、屍が積み重なり、戦える人材は残り百名に満たない程度しかいなかった。

巨像の相手はラーノルドがやっており、どうにか時間を稼ぐことはできているようだ。

シェルルの止めを刺し、ラーノルドの援護に入る。その予定でいるはずだった───


「メギドラ!!」


後ろからヅィギィアの声が聞こえた。その声色から自身に危険が迫っているということは理解した。しかし、疲弊したメギドラは、その危険がどこから来ているのか感じ取ることができなかった。

次の瞬間、メギドラの横腹に激痛と衝撃が走った。

体が吹き飛び、まるで無重力空間に放り出されたかのような感覚になりながら宙を舞い、意識が遠のいていく。目の前の景色がぐるぐると回り、地面から遠ざかっていく。

朦朧とする意識の中、翼を広げてどうにかダメージを軽減させようとする。

しかし願い届かず叶わず体は地面に激突し、鈍い音を立てて転がった。激痛のする部位を押さえるとそこには生温かい液体がドロドロと流れ出ていた。

朦朧とする視界には、青緑色の人影が慌てて駆けつける景色が見えていたが、それが何なのか理解することすらできなかった。

それでもこんなことをした犯人は分かっている。中央聖騎士団(サンツシュヴァリエ) 第4騎士(キャトリエム) ラビアス・バーミリオンだ。

どうにか動こうにも身体が重く、動かない。このまま殺されてしまうかもしれないと思ったとき、声が聞こえてきた。


「すまんメギドラっ!!だがおかげで隙ができた!“死打発勁(パスバーデン)”!」


ヅィギィアはラビアスがメギドラを攻撃したときにできた隙を狙って発勁を喰らわせる。

「ぐっ!」と、耐えるような声が漏れ、軽く吹き飛んだが、大してダメージがあるようには思えなかった。


「同時に・・・“四死点(デッドポイント)”」


発勁での攻撃と同時に“四の死(フォー・オブ・デッド)”の能力を発動することができた。

ラビアスの体には4つの“死点”が発現した。ここからはヅィギィアの土俵だ。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「メギドラ、あれはまずいね、第11騎士を瀕死まで追い込んでるけど、その代償にメギドラ自身もほぼ瀕死状態だ。今はセシリアが守ってるけどすぐにでも限界が来る。ベスティア、護衛に何か付けれる?」


アルマ、ヴィドル、ベスティアの三名で人間軍を蹴散らすことができていてほぼ傷を負っていなかった。


「出来ます、“猛獣(もうじゅう)黒狼(こくろう)』”“猛獣『白狼(はくろう)』”」


アルマに指示され、ベスティアも地面に手を置き唱えた。言葉を唱えた瞬間に地面にサークルが発生し、中から毛の黒い狼と毛の白い狼が現れた。

ベスティアの逆鱗“静寂の猛獣(サイレントビースト)”その能力は『自身が手なずけた獣を呼び出す能力』

元々竜人領に生息する獣を屈服させる、力を認めさせる、仲良くなるなどして契約を結ぶ。契約を結んだ獣はベスティアの自由で呼び出すことができ、指示を出して動かすことができる。獣たちは言葉で会話することはできないが、ベスティアの言う言葉は理解できて、ベスティア自身も獣たちが何と言っているのかがなんとなく分かるらしい。

黒狼、白狼は竜帝国の近くの山々に生息する獣であり、種としては同じである。ただパワーのある狼は毛色が黒くなり、スピードのある狼は毛色が白くなるというこの狼独特の特徴がある。


「黒狼、白狼、メギドラとセシリアちゃんの護衛に付いて」


「ワォ」と、そう返事し、人間軍の人の間をするりと抜けてメギドラの方へと向かっていった。


「あいつら大丈夫でしょうか?」


「みんな運が付いてる、だからきっと大丈夫だよ」


「アルマさんの逆鱗をかけてるんですか?」


「もちろん、君たちにもかけてるよ、だから大丈夫。ある運全部分け切ったからね」


そう言って笑うアルマの逆鱗“強欲な瑠璃(グリードラピスラズリ)”その能力は『幸運を瑠璃に貯め込む能力』

逆鱗解放時に逆鱗から瑠璃が出現し、そのときに貯め込んでおいた幸運を放出する。瑠璃が輝いているほど幸運が貯められており、その輝きで溜まっている幸運を判断する。

幸運は自身だけでなく、味方にも分け与えることが可能であり、アルマは戦闘時に皆に分け与える。

幸運は逆鱗を使っていないときに貯められており、そのとき貯められるのは自身の幸運だけ。

言い換えれば、自身の幸運を他者に分け与えることができる福の神のような能力である。


「全力で戦いな、みんなにはボクの幸運がついてるんだから」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




(これが“四の死”葬死竜の逆鱗か、死に直結する力。本来ならば何があっても喰らわないように気を付けていたのだが・・・今のは仕方がない。あの血の竜人をあのままにすればシェルルはきっと殺されていた)

「この状況じゃあ、私も能力を使わないわけにはいかないな」


ラビアスは纏っていたマントを脱ぎ捨て、身軽になる。ラビアスの鎧は他の者と比べたらかなり軽く、胸当てや膝当てなど、動きを阻害しない程度の防具しかしていなかった。


「葬死竜、お前なら私の能力の効果を知っているだろう。見れば分かるだろうし、隠す必要もないだろう。私の星誕は“増殖(ぞうしょく)”だ」


ラビアスがそう言って力を溜めると、両肩のから2本ずつ腕が生え、合計6本の腕になった。

ラビアスの星誕“増殖”は、細胞が進化した力。肉体の細胞分裂を操り、新しく腕や脚を作り出すことのできる能力。故にその名は増殖。

ヅィギィアはその能力のことをよく知っている。


(あっちの第11騎士(オーンジエム)の星誕は能力の応用で手数を増やしていたが、こっちは純粋に手数を増やす力。メギドラのように簡単に神経を切って無効化するのは難しい。他の星誕よりシンプルな部分が多いから対策は立てやすいが、星誕の時点で面倒なことには変わりない)


ヅィギィアは『魂絶』の切っ先をラビアスの方へ向けた。狙いは作り出した死点。ラビアスがどれほどの実力者だろうとこの4つの死点を破壊すれば死ぬことには変わりない。

そのことをラビアスも分かっている。括束武具から剣や槍を数本抜き取り、複数の手に持たせる。一回り括束武具は小さくなってが、それは問題ない。これで迎撃の準備は完了した。


「“命刈死刀(ライフリーパー)”」


ヅィギィアは距離を一気に詰め、連続で斬りつける。

メギドラはその動きが目で追えず、剣筋が線のように見えるだけだったが、ラビアスにはある程度視えているようで、複数の手に持つ武器で防げていた。


「やるね、やっぱり胸部の死点はそう簡単に壊させてくれないか。でも、一つ目は壊させてもらった」


ヅィギィアがそう言うとラビアスは右肩に針が刺さったような痛みがあることに気が付いた。同時に精神の何かが抉られるような痛みが走ったことも。


(なるほど、流石は将軍級、胸部の死点に注目しているように見せかけて本来狙っていたのは右肩の死点。視界が丁度右肩から外れた瞬間に攻撃、そして破壊。どれも私の一瞬の隙を狙った行動だな。私もまだまだ未熟か・・・)

「・・・だが、視界が狭くなるなら、更に眼を増やせばいいというものだ。“多眼羅身(たがんらしん)”」


ラビアスの顔に、無数の目が出現した。

頬などのあるはずのない部分から目があり、一つの顔に無数の目があるという気味が悪い見た目をしていた。


「随分と・・・無理矢理な対応だな」


ヅィギィアは今度は背中の死点を狙おうと速度を上げて刺そうとするが、ラビアスは背中に剣を背負うようなスタイルでその攻撃を防がれた。


「───だが、効果的ではあるだろう?」


ラビアスはヅィギィアを蹴り上げた。これが大したダメージにならないことは分かっている。これは距離を取るための蹴りだ。


(迂闊に攻めすぎだが、これを繰り返せば時間稼ぎは十分なほどできるだろうが・・・心配は───)


そう思いながら血を流して倒れるメギドラの方をちらりと見た。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




メギドラは、朦朧とした意識の中にいた。

まるで霧がかかったかのように視界がぼんやりと霞み、聞こえてくる声は遠く、思考がまとまらない。どうにか体を動かそうにも、体は鉛のように重く、動かそうにも言うことを聞かない。

まるで夢の中にいるような感覚だが、呼吸をするだけでも苦しく、あちらこちらに痛みが走る。


「・・ラ・・・ドラ!!・・」


遠くで声が聞こえる。名前を呼ぶ声が。

その声だけで体は動かない。


「・・お願・・して!」


いくら言われても体は動かない。体がゆすられる感覚だけがする。

段々と深い水の底に沈んでいくかのように、意識が深く深く暗闇へと向かっていく。

もう寝てしまおうか、と思える程に沈んでいったとき───


「・・メギドラ!!」


名を呼ぶ声に意識が深い底から呼び戻された。

重く鈍い瞼を開く。その視界は霞んでいるが、青緑色の輪郭をしていた。

その姿を見て、止まっていた思考を再び回す。

「俺はまだ戦える」と自分を鼓舞した。最後まで戦い抜くために。


(意識を戻す。朦朧とする意識と景色は脳への酸素不足が原因。俺なら血を回せばこれを解消できる。通常通りでいい、調整をミスって強くしすぎれば脳が壊れる。眼や腕のように失敗は許されない、慎重に慎重に・・・)


メギドラは“竜の血”で脳への血流を調整する。体内の血液不足で体内の機能が上手く調整できない状態でも脳は新鮮にする。これで朦朧とした意識を元に戻す。


「・・あ・・あぁ・・」


右目は見えないが、左目ははっきりと見える。

その視線の先には涙目で顔がぐしゃぐしゃになっているセシリアの姿があった。

二体の周りにはそれを守るように白と黒の狼が回って囲んでいた。

こんな分かりやすい隙で狙われないのはこの狼たちが護衛に付いていたことに合わせ、セシリアが“障壁空間(バリアフィールド)”で守っていてくれたからだろう。


「メギドラ!!」


(ははっ、敬語外せてるじゃないか。そんな悲しそうな顔をするなよ、俺まで悲しくなっちゃうだろ)


そんな声を出そうにも出ないから、心の中で思うしかないのたが。


(血を止めよう、流れた血液で疑似皮膚にするのもいいだろうが、それは効果的じゃない。血管を一本一本を繋げられるような技術はない。ここは血管の破損部分から血が流れるのを止める・・・血栓を作るか。右目と横腹の血液を固める。血栓症は・・・今は考慮しなくていいか、多分それで死ぬことはない)


震える手で右目と横腹を抑え、心の中で「“竜血栓(ブラッドクロット)”」と唱えた。

次の瞬間、血液の流れが収まり、傷口に血栓が形成された。まるで見えない糸が血液を引き寄せ、瞬時に固まり出血を止めたようだった。


「ガハッ!!」


「メギドラッ!!!」


口から血を吐き出し、苦しい気道を解放する。

その様子を見たセシリアが更にメギドラを激しく揺する。


「や・・めろ、セシリア!血は止めたが・・・応急処置程度だし・・・俺はまだ重症だ」


揺するセシリアを静止し、彼女の顔を見る。

どこか嬉しそうで悲しそうな、少し安心したような、涙をこらえた顔をしていた。

その顔を見て、メギドラはようやく理解した。今自分が死んでしまえば、またセシリアが孤独になってしまうということに。彼女が自分のことを想ってくれていることに。もう寝てしまおうかと少しでも考えてしまった自分を後悔しながら。


(反省は後だ、今はあの第4騎士のやつを・・・)

「セシリア、手を貸して欲しい」


そう言いながら、流した大量の血を操ってイメージする。イメージするのはボウガン。鎧を穿ち、肉体を貫通するボウガン。

矢も血で作り出す。強い威力に耐えうるだけの力を込めて固める。

ボウガンによる遠距離攻撃で、攻めあぐねているヅィギィアの援護に入り、勝率を少しだけでも上げる。


「セシリア、腕を」


ボウガンを精密に操るためにメギドラの皮膚に触れさせておく必要がある。しかし、メギドラの腕は狙えるように動かない。

だから狙いはセシリアに任せる。セシリアがメギドラの腕を動かして、メギドラが発射する。そのように仕事を分担することにする。

体が冷たい、戦う前は冷たく感じていたセシリアの手が温かいと感じる程だ。それはメギドラがそれほどまでに弱っているということなのだが。


「右・・・左・・・少し上・・・」


腕が震える、こんな腕で命中させられるか心配になってくる。

それでも大丈夫だと、自分に言い聞かせ、狙いを定めた。狙うのは背中の死点、貫通して心臓を穿てるような力を込める。


「大丈夫・・・大丈夫だから」


彼女がメギドラの腕を優しく包み込み、彼女の血の流れを肌で感じた。その瞬間、ほんの一瞬というか細い瞬間だけ、腕の震えが止まった気がした。


「“竜血矢(ブラッドアロー)”」


今出せる渾身の力を込めて血の矢を発射する。

その一発だけで精度の悪い血のボウガンは弦から砕け、発射した力でメギドラの鱗にひびが入った。

痛みはある、神経は全力で痛みを訴えかけてきているのだろうが、脳はそれを感じ取れない。

頭の中は当たれという言葉でいっぱいだったから。


血の矢は一直線にラビアスの死点に向かう。

本来ならば眼を増殖させたラビアスにはこんな攻撃通用しないだろう。だが、ヅィギィアと戦闘していれば、眼を増やしても視界は自ずと狭くなり、意識は相手に向いていく。

その意表を突いた攻撃ならば───


「ぐ・・・がぁ!!!」


命中した。

痛みの声を上げ、背中の死点が破壊される。そのまま肉体に突き刺さり、痛みはどんどん広がっていくだろう。

そしてこれは、ヅィギィアが残りの死点を破壊することができる、圧倒的な隙である。

ヅィギィアが「ナイスだ」と言うかのように表情を変え、残った左肩の死点を突き刺し、破壊した。

あと一つ、あと一つ破壊するだけで中央聖騎士団 第4騎士 ラビアス・バーミリオンを倒すことができる。


「これで・・・終わり・・・“命刈死刀”!」


その紫の剣筋の閃光を描いた剣の攻撃は、明らかに、ラビアスの胸部を切り裂いた。

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