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ドラゴンブラッド  作者: カシワデ
竜人領生活編
15/25

15話 “中央聖騎士団”

前線へと向かう飛行中、後方から雷鳴のような爆発音が耳に届いてきた。切って進む風の中から硝煙の臭いが鼻につき、ここは戦場であることをより一層実感させられる。

しかし、緊張して心臓が早鐘を打つようなことはなく、メギドラ自身でも驚くほど冷静でいた。

きっとそれは、強いすぎるストレスや緊張感によって、逆に冷静になっているだけだと結論づけた。


「セシリア、大丈夫か?」


冷静なメギドラとは対照的に、セシリアは明らかに恐怖していた。「大丈夫です」と言葉は帰ってきたが、全く大丈夫そうではない。手の震えや浅い呼吸など、セシリアは隠そうとしているが、抱っこして運んでいるメギドラにはその様子が隠せていない。触れている身体も、明らかに冷たかった。

出発前に「やります」とは言っていたが、そう簡単に振り切れないだろう。


「ヅィギィアさんとか、ラーノルドさんとか、ここにいる方達はみんな強い。だから自分のできることを最大限尽くそう。それで充分だ」


この言葉は対して気休めにはならないということは分かっていたが、ないよりかはマシだと考え、そう言った。結果は予想通り、震えも動悸も収まらなかったが、呼吸は落ち着いたようだった。


「よし、降りるぞ」


ヅィギィアがそう言うと、雲を抜けた視線の先には人間の軍勢、その後ろに人型の牛の巨像。ミノタウロスの巨像が鎮座していた。

人間の数はざっと三百名ほど、ほぼ銀色の鎧に身を包んだ者たちだったが、その中に二名だけ、真っ白なマントに身を包んだ者たちが見えた。

人間たちは飛んでくるこちらに気がつくと、即座に臨戦態勢につき、陣形を組んで武器を向けてきた。

遊撃隊八名はその陣形の少し前に着地し、ヅィギィア一名が歩いて行った。


「こんにちは人間軍の皆様、早速だが巨像たちを置いてさっさと人間領の方へ帰ってくれないか?」


ヅィギィアの話している間、メギドラとセシリアの方にラーノルドが話しかけてきた。


「ほぼ絶対言う通りにはならないが、戦わずして終わるんだったら一番いいからな。ああやって終わる可能性を出してるんだよ」


「そうなんですか・・・その前にラーノルドさん、何であいつら全員ツノがないんです?戦う前に折ったんですか?」


「・・・はぁ?何言ってるんだメギドラ?」


ラーノルドは本当に困惑したような表情をしていた。


「戦場での緊張をほぐそうとしているのかもしれないが・・・余計なお世話だぞ、今は集中しろ。あいつらはどんな手でも使ってくるし、奥には“中央聖騎士団(サンツシュヴァリエ)”もいる、決して油断できない」


話を流され、いまいちパッとしないが、今はラーノルドの言う通りに戦いに集中することにした。

ヅィギィアの方を見ると、銀色の鎧を着た兵士の前に白いマントを羽織った男が出てきていた。

その男は白いマントに「4」という文字が描かれ、無数の槍や剣などの武器を括って束ねた巨大な武器を持っていた男だった。

もう片方の白いマントの男は、赤く「11」という文字が描かれたマントを羽織り、特に何の武器も持たない細身の男であり、巨像の前で待機していた。


「竜帝国の将軍級 、“葬死竜(そうしりゅう)”ヅィギィアだな?」


武器を束ねた男の方が声をかけてきた。


「私は中央聖騎士団 第4騎士(キャトリエム) ラビアス・バーミリオン」


“中央聖騎士団”ここにいる銀色の鎧を着た人間軍の兵士たちとは違い、主に人間領の王族貴族に仕える十二名の騎士団。第1から第12まで番号が振られており、長く在籍した順番で振られて、決して強さ順ではない。

言うなれば人間軍の幹部。この組織の上にあと二つの組織があるが、それでも並みの兵士と比べて隔絶した実力を持つ。


「お前たちの要求に応えることはない。血を流したくないのなら、さっさと投降しろ」


「話し合いはするだけ無駄か・・・」


「じゃなかったら、こんなことになっていない」


「・・・やれ」


ヅィギィアのその言葉を合図に、竜側は総員が「逆鱗解放」と唱えた。そうして戦いの火蓋は切られた。

熱気が漂い、怒号が巻き起こって人間たちは進撃していく。人の海が津波のように押し寄せてくる。


「行くぞ!!」


最初にラーノルドとヤトが両翼から軍勢に突撃する。ラーノルドの後からメギドラとセシリアが、ヤトの後からアルマ、ヴィドル、ベスティアが突撃する。

中央聖騎士団はヅィギィアに任せることになった。


「最も気を付けるべきは二名の中央聖騎士団、そしてあのミノタウロスの巨像。攻撃はなるべく喰らわないようにすること、あとは慢心せず油断しないこと」


気を付けるべきことを小さく声に出して復唱し、意識に刷り込む。戦闘中、集中したときにも忘れることの無いように。


「“剣歯牙(サーベルファング)”」

「“竜拳殴牙(ドラゴンアサルト)“」


遊撃隊には広域攻撃を持つ者がそう多くない。面倒だが単体攻撃でチマチマと削っていくしかない。

一発一発が全力で出せず、温存しながら戦うしかない。だがそれでも十分なほど、人間は脆かった。


(元人間の俺が言うのもなんだが・・・人間ってこんなに弱かったか?兵士だから鍛えてはいるはずなのに、これじゃあ竜星村の一般村人より弱いぞ?)


違和感を感じつつも、攻撃の手を緩めない。元より油断してかかれるような状況ではない。

襲い掛かる人の波はとどまることを知らないのだから。


「メギドラ、少し分かれるぞ。俺はあの中央聖騎士団を相手する」


ラーノルドは簡潔に説明し、軍の中央の方へ飛び立っていく。

飛ぶ鳥を落とすように銃で空中を撃つが、それは高速で動くラーノルドには当たらない。

群だとしても連携を絶てばただの集まり、個人主義の戦いになる。それなら厄介なことにはならない。

セシリアも、戦闘前はあんなに恐怖していたのに、順調に戦えている。


「このまま順調にいけばいいが」


いくら今が上手くいっても、戦う前からしていた嫌な予感は一向に収まることはなかった。むしろどんどん嫌な予感が強まってくる。竜星村に巨像が攻めてきたときと同じような感覚がした。

次の瞬間、視界の端に黒い影が映った。それに気づいたときにはもう遅かった。


「───ぐっう!」


鈍い音と痛みが顎に広がり、世界が眩く白い光に包まれる。痛みの波が脳の方まで響き、目の前がぼんやりと揺らいで視界が歪んでいく。

足元がぐらつき、意識が遠のきそうになっても何とか踏みとどまる。


「メギドラ!?」


「大丈夫だ」


セシリアが心配する声にも応え、拳を固く握りしめる。少しダメージは大きいが、戦えないほどじゃない。竜の体ならすぐに戦えるようになる。

今はその黒い影の正体と戦わなくてはならない。顔を上げ、その敵を真っ直ぐ見つめる。


「いやぁ、結構いいのが入ったと思うんだけど、倒れてくれないか。流石は竜人だね」


その男は、ラビアスと名乗った騎士とは違う、もう一人の中央聖騎士団のメンバー。鎧を脱ぎ捨て中から「11」という赤い文字が描かれたマントを羽織った男だった。


「そうか・・・巨像の前にいた方は影武者、たった一発入れるためだけにに普通の兵士の鎧を着て紛れていた。鎧を脱ぐのは少し早かったとは思うが・・・で、誰だお前?」


「中央聖騎士団 第11騎士(オーンジエム) シェルル・シューラ。あんたは?」


「メギドラ」


そう、端的に答える。


「その手は、“星誕(せいたん)”ってやつか?」


シェルルの周りには、浮遊する石製の手が飛んでいた。まるで巨像のように自由に動く手、サイズはシェルル自身の腕とほとんど違いはないようだが。

それが左右の手4本ずつ。計8本の石製の手を持っていた。合計10本の手、厄介この上ない。


「そう、これが僕の星誕“身体延長(しんたいえんちょう)”」


“星誕”それは人間が持つ特異な能力。竜に逆鱗という力があるように、人間は星誕という力がある。

竜のように全ての者が持つ力ではなく、一部の人間しか持つことはない。

脳や筋肉、骨に内蔵など、その一部を進化させることによって生まれる力のこと。まるでその一部の場所だけに輝ける力()が誕生したかのように思えることから、その名が付けられた。

シェルルの星誕“身体延長”は、神経が進化した力。無機物にすら自身の神経を流し込み、自身の身体の一部として扱うことができる能力。

だがメギドラはその能力の詳細を全く知らない。


「手がいっぱいってのはいいねぇ、文字通り手数が多い。小さな手だけだから、さっきみたいに近づいても気づきにくい。石製だから、普通の手で殴るより痛い。そして射程が長い・・・普通の手要らねぇじゃねえかこれ」


「そうだね、日常生活でもよく思うよ」


「じゃあ不必要なその両腕切り落としてやる」


「やれるものなら、やってみな」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「メギドラ、中央聖騎士団と・・・」


「よそ見しているんじゃないよ葬死竜」


ヅィギィアはラビアスとの戦闘を続けていた。

ラビアスの剣や槍を集めた括束武具(かっそくぶぐ)は巨大でそう簡単に早く振ることが難しいはずなのに、ヅィギィアの片手剣『魂絶』の攻撃を防いでいた。


(あんなに大きな武器なのに隙が少ない。攻めきれないな・・・“四の死(フォー・オブ・デッド)”の能力の発動も掌で触れることが条件、これを一番警戒しているな、そう簡単に触れることができる状態じゃない。こいつは星誕も見せていないし、迂闊に攻められないな。つまり純粋な体術と剣技をメインで戦うしかない)

「つまりはほぼいつも通り、全くもって問題なし」


ヅィギィアは試練のとき、正確には試練竜と戦うとき、逆鱗をほとんど使っていなかった。

即死につながるヅィギィアの逆鱗は、「同種族間で争っても絶対に命を取らない」という鉄の掟を破る可能性があった。

そのため、ヅィギィアは試練のときに逆鱗をほとんど使うことがなかったのだ。

つまり、逆鱗を使おうにも迂闊に近づいて使用できないこの状況こそ、むしろヅィギィアの真骨頂。


「“冥送死突(デスポーク)”」


心臓を狙う突き、ラビアスがこの攻撃を防げないわけがない。


「甘いぞ葬死竜、そんな攻撃が第4騎士の私に通じると思うな」


「勿論、そう思ってるよ」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「“蜻蛉翼突(ドラゴンネウラ)”」


ラーノルドは、「11」と赤い文字が描かれたマントの男の心臓を狙って空中から一突きする。

男も剣を構えてガードの姿勢を見せるが、そのガードに使った刀を正面から打ち破り、心臓を穿つ。


「弱すぎる!?」


直後、後方に見える「11」のマントの男、それと戦うメギドラの様子。そして目の前の男の弱さがその答えを明白にした。


「ちっ、騙された。本来俺が中央聖騎士団と戦う予定だったが、俺の相手は・・・巨像とその他の有象無象、逆鱗を少し多用しようか」


ラーノルドの逆鱗“顕現する太古(エンシェントフォース)”その能力は『太古の時代に実在したとされるものを力として顕現させる能力』

ラーノルドの使った技“剣歯牙(サーベルファング)”は太古に実在した哺乳類、サーベルタイガーの力を顕現させた力、先ほど使った“蜻蛉翼突(ドラゴンネウラ)”も太古に実在した昆虫、メガネウラの力を顕現させた力だ。

ラーノルドはこの力を自身の技術に組み込み、剣術という形で古代生物の力を十二分に引き出している。

また、技は形だけ似せることはできるが、力を顕現させていないため、当然パワーもスピードも下がる。その分体力を温存することができるため、一長一短ではあるが。


「メギドラやヅィギィアさんの邪魔をさせちゃいかない。他は俺が相手させてもらうぞ」


「だからと言って、単独でこれを相手するのは骨が折れるでしょう」


そこには、大鎌『鎌首大蛇』で軍勢を切り裂いて突撃してきたヤトの姿があった。

まるで死神の鎌の如く先から血がぽたぽたと滴り落ち、毒々しい赤と紫の刀身が邪悪なオーラを醸し出している。


「僕の逆鱗の方が対人向きだからね、巨像の方をお願いしますよ」


ヤトの逆鱗“呪い祟り(ベンジャンススペル)”その能力は言葉の通り『相手を呪い、祟りを起こす能力』

まだヤトの逆鱗の使いが未熟であり、相手を呪っても幻覚や幻聴、幻痛、幻臭などを起こす程度の力でしかない。だがそれでも戦闘では十分有効な手段である。


「能力の効果は薄くとも、効果範囲は広いからね」


ヤトに近づく者、皆が痛みを訴え、目を抑え、耳を抑え、武器を落とす。そのような隙を見逃すわけがなく、鎌首大蛇はその命を刈り取る。

戦争に容赦なんて必要はないのだから。


時間が経つにつれ、戦いはどんどん激化していく。

まだ戦闘開始から少ししか経っていないのに身体が重く感じてしまう。砂埃が立ち込め、嫌な鉄の臭いがする。

そんな嫌なことしか考えられない状況であるのに、メギドラはその状況に“楽しい”という感情が芽生え始めていた。そのことにメギドラ自身は気づいていないが。

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